日本研究を行うブラジル人学者7人とブラジル研究を行う日本人学者3人による論文集『Novos Temas de Pesquisa em Estudos Japoneses』(日本研究における新テーマと調査)が1月15日、ジュルアー出版から刊行され、今月21日に出版記念会がサンパウロ市パライゾ区のマルチンス・フォンチス書店で行われた。
企画を主導したのは言語学博士の仲栄真・オリビア・由美さん(37、二世)。ブラジルの日本研究者の間では、研究成果の発表場所が少ないことが共通の悩み。そして、それは日本のブラジル研究者の間でも同様であった。仲栄真さんの「皆で協力して新たな研究発表の場を作ろう」という呼びかけに日伯両国の研究者が賛同し、実現に至った。
ブラジルでの日本研究発表の代表的な場としてはサンパウロ州総合大学(USP)が毎年刊行する論文集『Estudo Japones』が挙げられる。だがその内容は文学と社会学が主で、それ以外の分野には研究発表の場が「ほとんど無い」と仲栄真さんは話す。
今回の本は全編ポルトガル語構成で計9本の論文が掲載されている。内訳は日本の法律(憲法、環境法、社会保障法)を主題とした論文が3本、性的少数者の扱いに関する論文、日本語とその教育方法についての論文、東アジアにおける日本のソフトパワーの影響力に関する論文、日本の国際的な治安活動に関する論文、ブラジル南東部における日系農園主らの農業経営並びに農協に関する論文、花嫁移民に関する論文が各1本ずつだ。
執筆者の1人、チアゴ・トレンチネラさん(39)は環境法を専門とするブラジル人弁護士。08年に文部科学省の援助を受けて大阪大学へ留学し、家電リサイクル法の研究を行った。当時のブラジルには廃棄物処理に関する連邦法が無く、各国の法令研究が行われている時期だった。
「他分野でもそうだが、欧米諸国の取り組みは盛んに研究されるのに日本の研究は非常に少ない。環境法の分野で言えば、“もったいない ”という言葉に象徴される省資源国日本の取り組みを研究することは、今後のブラジルにも大きな示唆を与えてくれる。同書の出版を契機に様々な分野において日本が研究の対象となっていること、そしてその有用性がブラジル社会に認知されるようになって欲しい」と語った。
同書はジュルアー出版のサイト(https://www.jurua.com.br/shop_item.asp?id=27432)から購入が可能。印刷版が84・7レアル、電子版が59・9レ。イベントを行った書店(Av. Paulista, 509 – Paraiso, Sao Paulo)でも販売中。
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『Novos Temas de Pesquisa em Estudos Japoneses』に掲載された信州大学の島村暁代準教授とブルーノ・タカハシ博士の論文『ACORDO PREVIDENCIARIO BRASIL-JAPAO:CARACTERISTICAS E QUESTIONAMENTOS』(日伯社会保障協定の特徴と問題点)は、デカセギや駐在員が苦労する日伯両国にまたがる年金の法的な取り扱われ方やその仕組みが、ポ語で詳述されている。日本語が苦手なデカセギには必携の一冊になりそうだ。