12日、事件発生1年を直前にしたタイミングで、リオ市会議員マリエーレ・フランコ氏の殺害実行犯が逮捕された。だが、「これで解決」ではなく、むしろ、これからの展開が注目だ▼思えば殺人事件に関して、マリエーレ氏殺害後のブラジル内での反応ほど奇妙なものを見たことは、コラム子の人生でも他に記憶にない。「ファヴェーラ出身の、同性愛者の黒人女性の人種問題活動家」。通常なら強く愛される要素を強く持っているものだし、マスコミの関心が高くなるのも理解できる▼だがブラジル内では、当然のごとく熱烈な追悼が起こった一方で、マリエーレ氏の栄誉を必死に貶めようとする人たちが後を立たなかった。「マリエーレ葉犯罪組織と強い結びつきがある」「犯罪組織のボスの情婦だった」。そのような中傷がフェイクニュースとなって吹き荒れた。同氏のニュースがフェイスブックで流れると、「嘲笑による反抗」を意味する多くの笑いマークもつき、社会問題化した。その後も未亡人のモニカ・ベニシオさんが嫌がらせを受け続けて保護下に置かれたり、昨年の10月の選挙でリオ市民が善意で作ったマリエーレ氏追悼の番地プレートを、リオ州州議員候補が叩き割るパフォーマンスが行なわれたり。「何なのだこれは?」とコラム子は思っていた▼「これは間違いなく、中心にマリエーレ氏を貶めたい人たちが扇動しているに違いない」。コラム子はいつしかそう思うようになった。女性や同性愛者に対する殺人事件はこの他にも発生している。だが、それらの事件でそのような差別的反応が起こったのは見たことがない。俗に言われる「ポリティカル・コレクト」が厳しくなった世の中での白人の反動による保守化をさほど感じさせない。マリエーレ氏の件だけが突出しておかしかった▼すると、事件の捜査が進む中で一つの大きな推理が警察から浮かび上がってきた。「マリエーレ氏はリオのミリシアに殺された」。ミリシアは強面の民兵組織のことで、地域の利権を影で牛耳る犯罪集団のことだ。マリエーレ氏は彼らから、既得権益を脅かす存在として恐れられていた、ということだが、それならば合点が行く。つまり、彼女に汚名を浴びせようとした原動力は彼らだった、と理解できるからだ▼だが、そんなリオ市のローカルなものがなぜ全国的な問題にまで大きくなったのか。そこにボルソナロ大統領一家が絡んでくる。その大きなきっかけは、長男の上院議員、フラヴィオ氏が、汚職で軍警を追われたミリシアの母親を、当時リオ州議員だった彼の職員として雇っていたことが判明したことだ。いみじくもフラヴィオ氏はこれまでにもミリシアに対して好意的な発言を行ない、前述のマリエーレ氏の番地プレート割りも肯定していた▼さらに、今年のカーニバルのパレードでマリエーレ氏の追悼をテーマにしたエスコーラ、マンゲイラが優勝すると今度は次男のリオ市会議員カルロス氏がそれを批判した。同氏はボルソナロ氏のネット広報役で国内のネトウヨに大きな影響力を持っている▼そして今回の犯人逮捕で、その「奇遇」はさらに加わった。狙撃役の容疑者はボルソナロ氏の隣人で、両者の子供が交際しているとの情報が警察から洩らされた。また、運転手役の元軍警の容疑者とは共に写った写真まであった▼これらの「謎」と「奇遇」が果たして今後どうなるか。(陽)