日本で「葱王」と呼ばれる長葱のブランドを生み出した斎藤ワルテル俊男さん(51、二世)=埼玉県児玉郡上里町在住=は、在日日系ブラジル人最高のビジネス成功者といわれる。今月24日までサンパウロ市に滞在する同氏は、8日にブラジル日本文化福祉協会で講演会を行った。会場には、長葱農家、人材派遣業、不動産業、教育業と複数の事業で活躍し続ける斎藤さんの活躍に関心がある約50人が参加。講演後には質問が相次いだ。
斎藤さんはデカセギブームの真っ最中、22歳の時に訪日した。当時は日本語を話せない同胞のために面接の通訳等を行い、その時に出会った日本人社長に起業を勧められ、人材派遣会社を立ち上げた。
しかし2008年のリーマンショックで事態は急変。約400人の社員は激減し、4億円の借金を抱えた。途方に暮れる斎藤さんが始めたのが長葱の栽培。出荷量を増やす工夫や品質向上の研究を重ねた結果「葱王」が生まれ、わずか9年で42・5ヘクタールの生産面積を誇るまでになり、「長葱作り日本一」になった。
ブラジルで事業をやろうと思わなかったのかという記者の質問に対し、「ブラジルよりも日本で商売をやる方が楽だと思う」と答えた。日本は規則を守る社会で不正はほぼないから、と。
斎藤さんが今力を入れているのは教育事業だ。「子供を持つ労働者が安心して働けるように」と、学校法人ティーエスを1997年に設立。世界で活躍できる人を育てるべきという考えから、多言語を学ぶ国際スクールとして8カ国以上の外国籍の子どもが学ぶ。
「日本に恩返しする気持ちで人を育てている」と語る斎藤さん。昨年は資金繰りが難しく大学に進学できない子供の状況を鑑みて、返済不要の「ネギの奨学金」制度を設立。「葱王」の売上から毎年2人に支給される仕組みだ。
文協の講演では、長葱農業を中心に自身の事業について説明。その幅広さや弛まぬ努力に、会場からは「どうすればそこまで成功できるのか」という質問が出ると、「正直さと信頼の勝ち取り。そして何より自分に自信を持つこと」と回答し、自身の経験を述べた。
竹中芳江さん(77、熊本県)は、講演会終了後に興奮したように「本当に良かった! 三世、四世にも聞いて欲しい」と語った。竹中さんは、前日に本紙でこのイベントを知り、参加を決めた。アマゾンの奥地、ポルトベーリョに12歳で移住した竹中さんは、大変だった自分の移住生活と重ね合わせて「彼の話に共感した。今の若い人に足りないものだと思ったので、娘に聞かせたかった」と語った。
◎大耳・小耳◎
斎藤ワルテル俊男さんは全く未経験だったのに「葱王」栽培を始めた。当時4億円もの借金を抱え、追い詰められた時に目に入ったのが誰もいない荒地だった。「人材を動かせば農業を始められる」と土地を購入し、地元の農家に栽培方法を学んだ。長葱に着目したのは、周年出荷が可能で安定している野菜のため。質の良い長葱を栽培するため土にこだわりコツコツと研究を重ね、立派な長葱を栽培した。現在の収穫量は1日7~8トンで、生産から出荷まで全て自社で行なう。ここまで事業を拡大し成功させている日系ブラジル人は、斎藤さんが唯一かもしれない。続くデカセギ成功者に期待したいところ?