今年に入り、ジャイール・ボルソナロ大統領、および彼の家族が引き起こす物議が国の内外で話題を呼んでいる。ただ、これからの少なくとも2年間、政治上の裏の実権を握りそうなのはロドリゴ・マイア下院議長になるのではないか。コラム子はそう睨んでいる▼それを象徴する出来事が23日に起こった。下院の憲政委員会(CCJ)での社会保障制度改革法案の改正で、ボルソナロ氏の社会自由党(PSL)の政治家がどうにもまとめられなかった法案を、彼がバックアップしたらすぐに通過した。PSLの政治家では味方につけられなかった中道政党勢力・セントロンを味方につけることができたためだ▼ボルソナロ大統領は、政党政治を「古い政治」と言い切り、今後の議会運営を、自身も下議時代に所属していた党派を超えた下院内グループ「農牧」「銃」「福音」を協力させて彼らで多数派を狙おうとしたが、これが全く機能せず。加えてPSLの下議は数こそ多いが、そのほとんどが政治経験がないような素人ばかり。しかも、頼みの綱だった、大統領選時の参謀でもあったグスターヴォ・ベビアーノ氏を、党内のいざこざで議会内のアルチクラソン(調停)役を切ってしまった。どうしようもなくなっていた状態だった▼こうした状況を、マイア氏が一肌脱がなかったらどういうことになっていたことか。大統領自身からも散々悪態をつかれたにもかかわらず、マイア氏が譲歩しなければ、最大の懸案である社会保障制度改革はその第一歩さえ踏み出せなかった▼こうした状況は、社会保障制度改革に限らず、他の件でも間違いなく起こるはずだ。調整役も存在せず、自分の政党の議員が小物だらけではそれも必然。事実、セルジオ・モロ法相の進める犯罪防止法も、マイア議長などからの酷評を受けるなど、早くも苦戦している▼仮に、連邦議会内でのマイア氏の手腕が評価されていくことになれば、面白くないのはボルソナロ大統領の「グル」で極右思想家のオラーヴォ・デ・カルヴァーリョ氏だろう。ただでさえ、ボルソナロ氏の行き過ぎた言論を軍人閣僚がうまく抑制して国民の支持があがれば「軍はブラジルを共産国家にしてしまう」などという人物だ。マイア氏がその標的にあがるのも時間の問題だし、そうなれば、同氏を教祖様のようにあがめるボルソナロ氏次男カルロス、三男エドゥアルド両氏も取り乱した言動を行ないかねないのは、ここ最近の動向から想像は難しくない▼だが、閣僚内人事なら「気に食わない」との理由で、ボルソナロ氏がそれを他のオラーヴォ派の誰かと首を挿げ替えることも可能だろうが、連邦議員は国民の選挙で選ばれた存在。挿げ替えは不可能だ▼そうなると考えられるのは、反マイア派によるスキャンダル攻撃となるが、これはマイア氏自身も気をつけた方がいいだろう。ただでさえ、ラヴァ・ジャット作戦の捜査で名を挙げられていることでもあるし▼18年の大統領選出馬は支持率が上がらないことで断念したマイア氏だが、それは不人気のテメル政権下での下院議長というイメージゆえの問題。その調整能力の評価自体はその頃からも高かった。元リオ市長の息子で、16年の下院議長選の際には、政治思想の全く異なるルーラ元大統領の労働者党(PT)の議員も支持に回らせたほどの人物。低迷していた保守政党、民主党(DEM)のイメージアップにも貢献している。しかも、まだ40代。今後の展開次第では、2022年までに大統領候補の本命に化ける可能性のある人物だろう。(陽)