「この法案が成立すれば、コロニアの日本語教師の励みになる」――ブラジル日本語センターの日下野良武理事長は本紙取材に対し、そう強い期待感を語った。同氏は昨年3月末に同理事長に就任するやいなや、5月に日ブラジル会議員連盟(麻生太郎会長)の特別講演会に招かれ、東京でブラジル日系社会の日本語教育の状況に警鐘を鳴らした。海外日本語教育への支援を増やすために、同年11月にも再訪日して講演。今年4月にも再々訪日して関係者に根回しをした。その感触として「『日本語教育の推進に関する法律案』の成立は決定的になった」との印象を持っているという。
この法案は、日本語教育推進議員連盟(河村建夫会長)が2年前から進めていたもの。昨年5月29日に政策要綱(原案)が提示され、国会提出に向けて動いていた。
これの直前の同月16日に日下野理事長は、衆議院第二議員会館で行った特別講演会で「日系社会の日本語教師が三世、四世の時代になった」と言及。「日本語による日本語教育」から「外国語による日本語教育」へ切り替えが必要だと提案し、日本語教育、日本語教師育成への資金援助の必要性を日本政府に訴えていた。
講演では議員から好感触を得ることに成功。また、その後も日下野理事長は「在外邦人子弟の日本語教育について、法律に明記すべきだ」と働きかけ続け、昨年11月27日にも河村議員、坂本武志議員の協力を得て再度講演会を行った。
その結果、固まりかけた政策要綱に「海外に在留する邦人の子等に対する日本語教育」が盛り込まれた。「法案内容がちょうど確定しそうな時だったので、自分の動きが『まさかのタイミング』と言われた。本当にその通り」と日下野理事長も驚きを語る。
同法案の政策要綱は、同連盟が昨年12月3日に開いた総会で承認された。国会での審議に向けて、専門部会で検討されている最中。6月中の国会通過を目指している。法案が成立すれば、今年12月にも運用の骨子が決まり、来年4月に施行される見込みだ。
日下野理事長は、この法案は与党・野党が一致協力する「超党派」で議論されているため、国会で成立する可能性は高いと見ている。日本では今年4月1日に新たな在留資格「特定技能」が施行され、日本語教育の整備が急務であることも追い風となっている。
法案が通れば、海外の日本語教育機関にも予算が下りることになる。日下野理事長は、使い道は「具体的には決まっていない」としつつ、教科書の開発や遠隔教育等へ利用し、日本語教師の育成・養成に役立てたいとの展望を語った。恒久的に日本語教育を続けるために基金を作って利息を運用する計画もある。
日下野理事長は「日系社会の文化の根幹は日本語。そのためにコロニアの日本語教師は日々頑張っている」と語り、「この法案が成立し、日本語業界を勇気付けられれば」と意気込んだ。
□関連コラム□大耳小耳
ブラジル日本語センターの日下野理事長は、「日本語教育の推進に関する法律案」について「本当に色々な人にお世話になっている」と感謝の意を示す。例えば同法案を2年前から練っていた日本語教育推進議員連盟の河村建夫会長。同氏は日ブラジル会議員連盟の幹事長だ。ブラジル日系社会に対する理解も深く、昨年12月の総会でも、ブラジルの日系社会を例に、日本との懸け橋としての日本語教育が重要だとの認識を、率先して示してくれたのだとか。他にも法案成立の署名運動が展開されたりと、多くの日本語教育業界の関係者や関心を持つ人が期待を寄せている。何とか法案を成立させ、海外日本語教育界の振興に役立ててほしいところ。