1次リーグ最終エクアドル戦に1対1で引き分け、日本代表のコパ・アメリカでの挑戦は幕を閉じた。招待出場のため、ベストメンバーを召集できず、苦肉の策として、来年の東京五輪を目指す22歳以下のメンバーを中心に、川島、岡崎といったベテラン選手を加えて臨んだ今大会、大会2連覇中のチリ、コパ・アメリカ最多優勝を誇るウルグアイ、隠れた実力国エクアドルのフルメンバーと戦い、2分1敗の成績は、決して恥ずかしいものではなかった。日本メディアの支援要員として、試合会場や練習場で身近に代表選手らと接した感想から記してみたい。(井戸 規光生記者)
FWスアレス、カバーニ、DFゴディンなど、世界トップクラスの陣容を誇るウルグアイ戦で見せた奮闘(2対2引き分け)は特に、各国メディアに「大会ベストゲーム候補」とも賞賛される内容だったことは誇るべきだ。
純粋なベストメンバーを召集できずに参加した日本には、「来年の東京五輪本番に向けた、良い経験」という言葉がチーム外からつきまとった。
1993年の〃ドーハの悲劇〃を選手として経験している森保監督は、「経験するために行くわけではない。勇敢に勝ちに行く」と頻繁に発言。若い選手たちも、「経験するつもりで出場するわけではない」、「元から経験するつもりで戦って得られる経験などたいしたものではない」と呼応していた。
しかし経験不足は、選手だけでなく、監督にも当てはまった。
グループ上位2位だけでなく、3位3チームの成績上位2チームまで決勝トーナメントに進める規定では、初戦で何よりも避けねばならないのは大敗だ。
惜しまれる初戦の大敗
その初戦、チリ戦では開始から中島、久保らを中心に積極的な戦いを見せ、チャンスも何度も作れていたが、前半終了間際にコーナーキックから先制点を奪われた。
後半開始早々も、日本は果敢に攻め込んだが、ここは敢えて、試合のリズムを落とすべきだった。優勝を目指し、先を見据えていたチリは、初戦に標準を合わせておらず、伏兵相手に思わぬ痛手を負いたくなかったはず。試合のリズムを日本から落とせば、暗黙の了解で攻め込んでこず、そのまま終了していた可能性が高い。1点差のままでしのぎ、残り15分に勝負をかける手もあったはず。
しかし日本は、自ら発した「勇敢に戦う」の言葉に縛られ、焦って攻めたことで、大人のチームであるチリのカウンターの餌食となり、終わってみれば0対4の大敗だった。
日本は初戦を1点差負けにとどめておけば、グループB3位のパラグアイと勝ち点、得失点差で並び、総得点勝負、フェアプレーポイント(警告や退場の少なさ)勝負で勝ちぬけていたかも知れないのだ。僅かの差で準々決勝ブラジル戦という経験を逃したことは惜しまれる。
ただし、初戦に大敗した後立て直し、グループC最強の敵ウルグアイと2対2の引き分けを演じたことは、それこそ「素晴らしい経験」となった。
実力見せたウルグアイ戦
初戦から2戦目までの2日間、練習中でも選手たちに意気消沈の様子は見られなかったし、ウルグアイ相手に2得点を決めた三好は、「最初に右から切り込んで、左足でシュートし外れたが、それがあったから次に同じシーンがきたとき右足に持ち替えてニアを狙ったら相手は対応できなかった」と先制点の内幕を明かしている。
初戦の負けを引きずらず、逆にハイテンションになりすぎて周りが見えなくなっているわけでもない。冷静にプレーしゴールにつなげられたことは日本サッカーの確実な進歩を示している。
最終エクアドル戦は、そこまで1分1敗の日本も、2連敗のエクアドルも、「勝てば決勝トーナメント行き。引き分け、負けなら敗退」という状況で迎えた。
この試合日本はテクニックに秀でる中盤の選手を中心に戦い、一旦は先制するも、エクアドルが高さ、速さ、パワーを前面に押し出す戦術に切り替えるとあっさり同点ゴールを献上、そのまま決め手を欠き引き分けた。決して勝てない内容ではなかっただけに惜しまれる引き分けだった。
「日本の長所は中盤」とは、1998年のW杯初出場のころから言われている。今大会で高く評価された中島や久保らも中盤の選手だ。「ドリブルやパスワークなどの技術で相手を上回ることこそサッカーの本質」との価値観が、選手育成の現場にもファンの間にも染み付いている日本は、エクアドルより技術では上回ったが、結局スコアは1対1で、勝利をもぎ取ることは出来なかった。得意の技術勝負に持ち込めず、相手が戦い方を変えてきたときの対応力も、今大会での経験を通して身に付けたい要素だ。
「経験の価値をピッチで証明」と誓う選手たち
自分たちで嫌った「経験」という言葉だが、年齢制限のないA代表の試合に出るのが初めての選手が多くを占めた今回のチームにとって、「初戦大敗、2戦目に立て直しての大健闘、3戦目勝利まであと一歩まで迫るも、勝ちきれなかった」ことは、やはり大きな経験となったはずだ。
試合に出場し、手ごたえと課題をつかんだ選手だけでなく、出場がかなわなかった選手も、「悔しさを次につなげる」「早く所属チームに戻って借りを返したい」「五輪代表だけでなく、A代表に食い込みたい気持ちが強くなった」とエクアドル戦の後口々に語っていた。
ただし、今大会、若手選手の〃お目付け役〃として出場。キャプテンとしてチームを引っ張り、奮迅の活躍を見せた柴崎は、「僕らはそれを(言葉でなく)ピッチ上で証明するしかない」とも結んでいた。
手ごたえ、自信、後悔、悔しさ、向上心などが入り混じった経験を手にした選手たちが、その価値を証明するのは来年の東京五輪、2022年のカタールW杯だ。