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大統領「息子を優遇して何が悪い?」には幻滅

息子のエドアルド下議とボルソナロ大統領(Foto: Fabio Rodrigues Pozzebom/Agencia Brasil)

 大統領には、本当にいい加減にしてほしい。まだ下院の社会保障改革案承認の2回目が控えており、いわば詰めの段階だ。本来なら今こそが政権の最重要課題の正念場、一番大事な時だ。それなのに大統領は、開いた口が塞がらないような発言を各方面に連発して、世間を呆れさせ、重要案件への集中を途切れさせている。特に「息子エドアルドを米国大使に指名する件」だ。
 大統領は「ネポチズモ(Nepotismo、縁故優遇主義)ではない。だって、指名した後に上院で試問があるだろう」と意味不明な発言を聞き、頭を抱えた。どうして、それが縁故優遇じゃない説明になるのか?
 ブラジル外交界で最も難しい交渉能力を求められ、だからこそ最高位である米国大使に、何の外交的業績も持たない若者を「自分の息子だから」と指名する行為自体が、立派な縁故優遇だろう。

フィレ・ミニョンンのステーキ(Naotake Murayama from San Francisco, CA, USA)

 「私が自分の息子を優遇しようとしている? その通りだ。息子にフィレ・ミニョン(ステーキに使われるテンダー)を与えられるなら、そうするさ」(20日付本紙2面)という開き直った発言まで。ここに至っては、昨年10月にボルソナロに投票した多くの有権者が幻滅しているに違いない。
 「Nepotismo」の語源は、ラテン語の「nepos」だという。もともとは中世カトリック聖職者の腐敗から生まれた言葉だ。かつて欧州の上級聖職者は、世俗諸侯(王族)と変わらない権力を持っていた。その権力を親族の子供(甥)に便宜を与え、後継者に指名するなどが行われて、カトリック界は腐敗した。。
 高い能力を持った新人指導者の育成を怠り、自分の親族というだけで、能力と関係なく権力を移譲したことで、組織が堕落腐敗し、プロテスタントの台頭を招いた。今でもカトリックでは聖職者の結婚が禁じられている理由の一つは、まさにこの縁故主義への反省からだという(ウィキペディア「縁故主義」)。
 その批判を込めて「nepotism」という言葉が生まれた。カトリック総本山のローマがあるイタリア語で「nipote」は「甥」「姪」「孫」。「甥っ子主義」や「姪っ子主義」的な意味となるという。
 大統領の政策に良い方向性がある部分は重々認めるが、この手の不用意で、軽率な発言は厳に慎んでほしい。「私が大統領なんだから、息子も当然美味しい思いができる」との振る舞いを公然とすることで、国民がマネしたらどうなるか…。
 だいたい、昨年の選挙期間中も「トマ・ラ・ダ・カー(連立与党政党との裏交渉)に陥らないように、大臣には政治家でなく、その道の専門家を指名する。議会での票集めのために政治家を大臣に任用するのでなく、能力で選ぶ」と言って、現在の組閣をした。「政治家との裏交渉はしないで、能力優先で人選する。だけど、家族は能力と関係なく優遇するよ」では、一国の元首としてオカシイ。
 ちなみにUOL教育サイト(https://brasilescola.uol.com.br/politica/nepotismo.htm)によれば、「Nepotismo」とは《ネポチズモとは、公務員が公職を家族に渡すこと。ネポチズモは汚職の一種》とはっきり書かれている。
 エスタード紙18日付電子版にも《連邦政府における、直接・間接的な人事に関するネポチズモ禁止の法的根拠は、ルーラ大統領時代に出された大統領令(decreto no 7203)だ》と書かれている。
 にも関わらず、この件に関して「司法関係者や最高裁判事の中でも意見が分かれている」との報道に接し、唖然とした。つまり、ネポチズモでないと考える最高裁判事がいる訳だ。この国の司法は、良くも悪くも懐が広すぎる。だから、国民が判断に迷う。
 こんなことで、反対派が盛り上がって、社会保障改革の最後に詰めがグダグダになって、特別優遇される職種がどんどん増えれば支出削減効果は激減し、ここまでの努力がすべて水泡に帰してしまう。
 ボルソナロ大統領は、トランプ米大統領ら政府関係者が好意的なコメントを発するのを期待して、米国政府に息子の駐米大使人事に関する打診をしているという。「トランプのコメント」をテコにして上院での試問に向けて横車を押そうと考えているとの報道も聞く。米国の威をかりてまで息子厚遇を図るなど、まことに嘆かわしい。
 この後は、ある意味で、社会保障改革と同じぐらいに重要な「税制改革」も控えている。ボルソナロ氏は、自分が大統領でいる間だけは、息子より、国のことを優先して考えるべきだ。だいたい大統領の旗印はネポチズモでなく、ナショナリズムではなかったか。(深)