ホーム | 文芸 | 連載小説 | 臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳 | 臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(127)

臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(127)

 隙間から小鳥が逃げないよう細心の注意を払って手を突っこみ捕まえる。そのあとニコリと微笑む。彼のいちばん気に入りの小鳥の種類はサビア、ズキンマヒワ、キンノジコ(カナリアの一種)テイエテ、アメリカウズラバトなどのように鳴き声のいい小鳥だった。
 まだ、幼いのに、小鳥の種類を見分けた。兄や隣の家族の子どもに教えられていた。雄のテイエテは羽が青黒く光った。雌は胸元が黄色っぽく、濃い黄色の縦筋があった。ズキンマヒワは背中がオリーブ色にちかい濃い緑、他は体中黒く、尾の付け根だけが黄色かった。
 アメリカウズラバトはしょっちゅう庭の奥のほうに現れた。興味の薄いハトに似ているが、歌った。さみしいが耳に心地よい歌声だった。サビアは姿こそ他の小鳥と違わなかったが、夜明けから朝までつづく鳴声に特徴があった。夕方になるとまた鳴き始め、ずっと長い間、その高い声を響かせつづけた。キンノジコは濃い黄色の羽と特徴ある鳴き方に魅入られた。1羽捕らえて、性格がおそろしく強いことを知らされた。
 あるとき、パチンコで小鳥を捕ろうと考え、うまく使えるまで腕を磨いた。パチンコは自分で作った。山から二股の枝を捜してきた。近所の人が捨てた自転車のタイヤのチューブを拾ってきた。それを細い紐にし、皮で繋ぎ合わせた。ときにはマッシャードス区にいる歌わない小鳥を山ほど撃ち、それだけで、家族の一食分ができるほどだった。
 ちょうどそのころ、家族がもっと大きい土地を手にする機会がやってきた。付近の農業者のマネ・プラッタの名で知られるポルトガル人マヌエル・ゴーメス・ダ・シルバ氏が転業した。ただし、土地を手放したり、まして、将来役に立つだろうと思われる所有地を売るなどということは考えもしなかった。それで土地を貸すことにしたのだ。正輝はマッシャードス区にきて以来、田場けんすけの所有地を借りていたが、その小さな土地よりもっと大きな土地を借りるほうが有利だった。
 栽培面積はずっと大きいのだが、住居はそれまでのより狭かった。狭い上に、家は完成しておらず、寝室にも、居間にも板の床が敷かれていなかった。すべて土間で、タバチンガから運んできたジャカランダのテーブルや家具がどれだけ持ちこたえられるかが問題だった。家具は湿気のある土間に直接置かれるからだ。
 そのころ、朝市で知り合った沖縄人川上栄吉がマッシャードス区に引っ越してきた。栄吉も正輝も子沢山で、二家族はすぐに仲良くなった。

 正輝はセッテ大通りでアイスクリーム店をやっていた当時からの政治について話し合うグループに熱心に参加していた。日本各地からやってきたそのグループにとって、国際情勢や日本軍の行動は盛んな討論をくり返すのに十分価する問題だった。
 津波元一や町でいちばん知識が豊富な高林明雄先生、若い洗濯屋の湯田幾江、ホテルをやっている有田博夫・マリオ、農業をいとなむ三保來槌は休まず出席していた。三保は当時48歳で、グループには一番あとに加わった。広島県の出身だった。祖国の将来について、とくに、この先、日本に課されて役目についてが話題となった。
 帝国日本に占領された地域ばかりではなく、国が必要とするなら、ブラジルを含めた他の地域についても考慮しなければならない。アジアのこれらの地域を軍事力で征し、勝利を重ねる日本が新しい役割を持つべきだ。そのことで、近い将来、世界中にインパクトをもたらすことだろう。