最も伝統的な民謡界に、新世代が続々と出現――「12歳の頃、細川たかしが南部俵積み唄(岩手県民謡)を歌っているのを聞いて、いつか自分も歌ってみたいと思っていた。今回優勝できると思っていなかったので本当にうれしい」―第31回ブラジル郷土民謡全伯大会の栄えある決勝戦優勝者、敷田治誠クラウジオさん(50、三世)=ブラジリア在住=は、そう喜びを語った。
ブラジル郷土民謡協会(北原民江会長、大会委員長)が4日午前9時からサンパウロ市の宮城県人会館で開催され、出場者やその家族ら100人余りが集まった。
父が二世、母がブラジル人の敷田さんは、ミナス州ペロッタス市の連邦大学で経済学を教える教授。そこでブラジル郷土民謡協会(以下、郷民)ミナス支部長の棈木(あべき)幸一さん、第23回優勝者の江田グスターボさん、海藤司さんや北原民江さんらの指導を受け、念願の優勝旗を手にした。12月に日本で行われる「郷土民謡民舞全国大会」に出場する。
今年からブラジリア連邦区のENAP(国立行政学校)に出向して教鞭をとっている。「ミナスにいた頃と違って、家で練習ができないので困っている」と頭をかく。ポ語で「最初は演歌を歌い始め、途中から民謡に替えた。08年からこの大会に参加している。民謡には日本人の心が込められている。とても強く日本を感じる。これからも極め続けたい」と力強く語った。
当日は北パラナや、ミナスからも参加者約60人が集まり、日頃研鑽している喉を披露した。中には舞台で緊張して、途中で歌詞を忘れてしまう人も。
特別ショーとしてサンベルナルド文協の民謡部、秋田県人会の民謡部も披露したほか、生田流正派ブラジル箏の会、グループ民、花柳流富貴門下生らの舞踊などが披露された。
中でも注目を集めたのは、県人会唯一と見られる秋田の民謡部。川合昭会長は「本荘追分を練習するために、3カ月前に発足し、毎月2回の練習を重ねている。一世は一人もいないが、みな実に熱心。今回は発足以来2度目の発表」と微笑みを浮かべた。他の県人会にも広がってほしい動きと言えそうだ。
31回の大会中、22回の小林和八(わはち)さん、23回の江田さんに続き、3人目の優勝者を出したミナス支部。棈木(あべき)支部長は「42年ぐらい前に民謡好きが集まってグループを作り、22年前に協会の支部になった。現在も支部会員は10人ぐらいしかいないのに、快挙だね」と嬉しそうな様子。
北原会長は「今回は特にお客さん反応が温かい。拍手をいっぱいもらって本当にありがたい」との大会の感想をのべた。民謡に興味がある人は同協会(11・5573・4349)まで。
各部門の優勝者らは以下の通り。【幼少年の部】戸根ガブリエラ、【新人の部】田中美智枝、【寿年の部(80歳以上)】中村洋子、【高年の部(71~79歳)】佐藤利和(としかず)、【中年の部(40~70歳)】長野秀男、【青壮年の部(40~70歳)】ヴィトル・バルボーザ、【ベテランの部】敷田治誠クラウジオさん
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第31回ブラジル郷土民謡全伯大会の途中、宮城会館は突然停電になった。しかし、会場では携帯電話の豆電球などを頼りに、グループ民の伴奏で全員が手拍子をはじめて、花笠音頭の大合唱をして、むしろ大いに盛り上がった。幸い、すぐに電気が戻ったから滞りなく大会が進行された。もしも30分ぐらい遅れても、そのまま全員でいろいろな民謡を歌い続けていたかも!?