ホーム | Free | 県連故郷巡りアマゾン=90周年に沸く「緑の天国」=(3)=入植仲間との久々の再会

県連故郷巡りアマゾン=90周年に沸く「緑の天国」=(3)=入植仲間との久々の再会

記念の集合写真

 9月12日朝、一行はカスタニャール日伯文化協会へ向かう道中で農産物展示会を見学した。ここでは地元民が、現地の材料から作ったお菓子や美容品、置物などを販売していた。アイスキャンディの棒やシュラスコの串を利用したリサイクル雑貨、楽器、ピラルクの鱗やヤシの皮を使用したピアスなど、様々な工夫を凝らし提供していた。

山本逸男さんと綾子さん夫婦

 夫婦で仲良く展示会を見学していた山本逸男さん(77、二世)と綾子さん(78、二世)と話していると、綾子さんが「私の母は『ハルとナツ』みたいだったのよ」と興味深い話をしてくれた。
 綾子さんの母親は長崎県出身で4人兄弟。ブラジル移住する渡航条件に対し親戚の家族は1人足りず、綾子さんは「母は家族の中で1人だけ、構成家族として親戚と共に移住した。すぐにお金を儲けて帰ってくると言ったそうよ」と聞き及んでいるという。
 NHK開局80周年を記念したドラマ『ハルとナツ』は、ブラジルに家族で移住した姉のハルと、感染症を理由にただ1人日本に置き去りにされた妹ナツの物語。なので、綾子さんの母親はその逆と言える。
 ノロエステ線の昭和植民地に入植し、戦後にやっと日本に戻ることができた。そこで母親は祖母から「お前の父は戦争中に捕虜となり、戦死したと報告を受けた。だけどある日突然家に帰ってきて、しかも焼けた皮膚で体がボロボロだった」と聞き、日本に残った家族も大変だったと知ったという。そこはまさに『ハルとナツ』のよう。
 そう母親のことを語ってくれた綾子さんと夫の逸男さんは、ふるさと巡り初参加。今回は「知り合いに会うために来た」とし、綾子さんは「私は花柳龍逸という名前で日本舞踊の先生を務めているの。同じ舞踊仲間の花柳龍駒さんが、ベレンのホテルに会いに来てくれるのよ」と懐かしい友人と会う約束をしている。
 逸男さんは「僕は一緒に仏教学院で学んだトメアスー本願寺の鈴木耕治さんに会いたいと思っている。できれば農場でピメンタも見たいね」と、トメアスー訪問を楽しみにしている様子だった。
    ☆

友人と再会果たした豊田一夫さん、神立(かんだつ)守さん

 展示会内を歩いていると、横田寛子さんから「この人を取材した方が良いわよ!」と手招きされた。そちらへ足を運ぶと、参加者の豊田一夫さん(82、栃木県)が地元の人と話していた。昔トメアスー移住地に住んでいた豊田さんに、友人の神立(かんだつ)守さん(81、栃木県)が会いに来たのだという。
 豊田さんは、1954年にあめりか丸で渡伯。トメアスー移住地へ家族で入植した。「マラリアに何度も罹って、注射のやり方を覚えて家族中に打った。でも戦後は薬も予防剤もあったからまだ良かった」と、戦後ですらも過酷な移住地だったことを伺わせた。
 資金を蓄えて南に移ろうかと考え、10年経った64年に現在住んでいるピラール・ド・スルに土地を買った。「55年前に出てから1度戻ったきり。本当の故郷巡りだね」と笑う。
 そんな豊田さんに「マラリアに罹った時に看病してもらった」と話すのが神立さんだ。58年に単身で来伯したが、「単独の移民は融資をなかなか受けられなくて大変だった」と順風満帆な生活ではなかったという。
 第二トメアスー移住地建設にも半年ほど携わったが「原始林の開拓からやって大変だった。建設準備委員会の大沼春雄委員長が、アカラ植民地を戦前に開拓した時のやり方で進めていたから大変。毎日開拓しては歩いて家まで帰っていた」と苦しんだ様子。
 マラリア防遏(ぼうあつ)委員会でも3年ほど仕事し、その時の給料と退職金でピメンタを3千本購入。だが栽培が上手く行かなかった上に根腐れ病が蔓延してきたため、77年末にトメアスーを出てカスタニャールに転住した。
 カスタニャール文協で故郷巡りの参加者リストに豊田さんがいると知り、会館で待たずに展示会場までわざわざ足を運んだという。こうした昔ながらの友人に会えるのが故郷巡りの醍醐味。二人は時間いっぱいまで語り合い、積もる話に花を咲かせていた。(つづく、有馬亜季子記者)


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 故郷巡りで豊田一夫さんに会いに駆けつけた神立(かんだつ)守さんは、「第二トメアスー移住地建設のために原始林を開拓していた時は、食べ物が酷かった」と顔をしかめた。何を食べたのかと聞くと、「ジャブチ(リクガメ)、パーカ(シカ)、タトゥ(アルマジロ)とか…」とたしかに普通は食べないものばかり。念のため「美味しかったか」と尋ねると、「あの時はそれしかなかったからね…」とのこと。今食べたいものでは決してないそうだ。並の根性では開拓生活ができないことが伝わってくるエピソードでは。