5年以上続いている政治的混迷がボルソナロ政権以降にますます深みにはまっているブラジル。だが、現在の南米を見ていると、おかしいのはこの国だけでないことがすぐわかる▼それはもちろん、マドゥーロ極左政権の暴走で国際的な孤立状態になって久しいベネズエラや、実業家出身の保守派大統領のもとでハイパー・インフレで債務不履行となり左翼ポピュリズムが復活目前のアルゼンチンもそう。そこに、ここ2週間足らずで、そのインパクトを遥かにしのぐ勢いで2つの国が加わったことは驚きだった▼一つ目はペルー。この国では、大統領が共和国議会を閉鎖し、返す刀で議会が大統領の職務停止を命じるという、壮絶な権力争いが起こった。ペルーは堅調に経済成長を続けており、安定したイメージがあったのでこれは驚きの出来事だった▼理由は、「汚職」をなかば攻撃材料として利用した、大統領と議会の足の引っ張り合いだった。ブラジルのラヴァ・ジャット作戦同様、ブラジル企業オデブレヒトからの収賄疑惑でヴィスカーラ現大統領の前任のクチンスキー氏が辞任。だが、それを責めていたはずの議会最大党、右翼ポピュリズムの人民勢力党リーダーのケイコ・フジモリ氏も同じくオデブレヒトからの収賄容疑で逮捕。ここからはむしろ人民勢力党の立場が危機にさらされ、同党の下院が「これ以上、捜査を進めさせない」とばかりに最高裁判事6人を同党に近い人脈で固めようとした疑惑が明確になったことで大統領に議会閉鎖に追い込まれていた▼そして二つ目がエクアドルだ。ここでは今月3日からガソリン代の大幅値上げに反対するデモが激化し、9日現在で700人以上が逮捕。軍と民衆との対立は凶暴化し、議会は抗議行動者に占拠され、首都の政府機能を他市に移すという、異例の事態に追い込まれている。だが、国際通貨基金からの巨額の援助資金を受ける代わりにガソリン代値上の理由となったガソリンや軽油への補助金カットを実行しなければならない。事態はさらに長引きそうだ▼この背景には、モレノ大統領の左派から中道寄りの政治路線変更に不満のコレイア前大統領が国民の不満を利用して裏で操作しているとの説がある。コレイア氏もオデブレヒトの収賄疑惑でベルギーに逃亡している身だ▼そしてブラジルでは、ボルソナロ大統領が所属政党・社会自由党の党首と対立し、なかば追い出される状況となっている。大統領本人としては、PSLにふりかかった汚職疑惑から自分を解きはなつことが目的のようだが、自身の息子にもう半年以上前から収賄疑惑があり、一家全体にリオのミリシアとの関係が怪しまれている状況では、「党を変えて問題をごまかそうとしている」とも早速見られており、実行すれば疑惑は深まるばかりだ▼加えて、自身を大統領当選に導いた党をこうも簡単に裏切ることでの反動も少なくないはず。とりわけ議会側はPSLを支持するであろうから、ただでさえ苦戦している議会で連邦政府の意向を通すのが難しくなるはずだ。さらにPSLが敵に回るとなると、一歩間違えれば罷免の心配も少しはしないといけないだろう▼これらが今現在、南米の国々が抱えている問題だ。しかも、方向性が国によって全くバラバラなのも興味深い。ペルーが
中道右派対右翼ポピュリズム、エクアドルが中道左派対極左、そしてブラジルが「極右路線の空回り」といったところか。また、ペルーやエクアドルでラヴァ・ジャット作戦の影響が出てきている一方で、ブラジルで逆にそれが弱体化しつつある好対照ぶりも皮肉めいたものがある。(陽)