ボルソナロ大統領、および、彼の息子たちの一族に一時期ほどの勢いがなくなっている。それは世論調査で、ボルソナロン政権の治世への支持率で否定的なものが肯定的なそれを上回り始めていることでも明らか。さらに、先週から勃発した「社会自由党(PSL)離党問題」でそのイメージはなおのこと強くなっている▼PSLは元が零細党で、昨年ボルソナロ氏を迎えたことで急に台頭した政党だ。2014年の下院選挙では1人しか当選者がいなかったのに、18年では55人が当選し一躍第1党になっている。いわばボルソナロ氏の力で党員を呼び起こした党だった▼だが現在、すでに下院では、ボルソナロ氏と喧嘩別れしたアレッシャンドレ・フロッタ氏ら2人が抜け、4人当選した上議も1人抜け3人に。さらに、今回のボルソナロ氏の党首ルシアノ・ビヴァール氏との対立で「離党してボルソナロ氏についていきたい」と志願した連邦議員は半分以下の20人台にとどまっている。加えて、同党下院リーダーのヴァウジール・デレガード下議からは「自分の一家の汚職疑惑を棚に上げてなんと無礼な」と批判され、上院リーダーのマジョール・オリンピオ上議は「フラヴィオ(長男)は党から出て行け」「カルロス(次男)は精神病院で入院でもしてろ」と過激な息子批判まで飛び出しているほどだ▼ここまでボルソナロ氏の権威を落としてしまっているのは一体何なのか。コラム子が思うにそれは同氏と一家の「見込み違い」に寄るところが大きかったのではないかと思う▼ボルソナロ氏はネット上で作り上げられた「虚像」と共に巨大化した。一時は「救世主」でもあるかのように信じ込ませてきたが、いざ現実の政権のぶざまなやりとりを見てしまうと、「虚像」と現実の落差に幻滅してしまう▼だが、それ以上にボルソナロ氏にとって誤算だったのは、当初彼がもっと引き付けたかったところの「軍人」や「警察官」といった人たちが想像以上に現実的だったことがあるように思う。その決定的な証拠とも言えるのが、ボルソナロ一家が心酔する右翼思想家オラーヴォ・デ・カルヴァーリョ氏と連邦政府の軍部グループとの対立だ。「地球平面説」などを唱え、非現実的なファンタジックなもの言いさえするオラーヴォ氏の言動は、とりわけカルロス・アルベルト・ドス・サントス・クルス前大統領府秘書室長官から特に強い拒絶反応が示され、それは連邦政府を閣外支配しているカルロス・ボルソナロ氏との対立、解任にもつながった▼新政権もいざはじまって見たら「軍の方がボルソナロ氏よりバランス感覚があるではないか」との評価にも今やなっている。PSLでも、ボルソナロ家息子たち批判の急先鋒であるオリンピオ上議が元軍人、ヴァウジール氏が元警察官というのもなんとも皮肉だ▼こうしたある種の「まじない」が利かなかったことで、今やボルソナロ氏は軍や警察などからの信頼を損ないつつある。今、この状態で仮に党移籍を果たしても、党の勢力は弱く、ただでさえ苦しんでいる議会への調整はますます困難なものになるだけだ▼そんな折、ウニベルサル教会のエジル・マセド大司教が、同氏関連の政党「共和者党(旧・ブラジル共和党)」にボルソナロ氏を迎え入れることに興味を示しているとの報道が出ている。たしかに今なら宗教関係の人たちの方が、軍の人たちほどには現実的ではない分、受け入れやすいだろうからいい選択肢かもしれない。そうなった場合、ボルソナロ氏の気分屋的な言動が福音派信者の神経を逆なでないかが問われることになるかもしれないが。(陽)