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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(164)

 「エリーゼオス宮殿での会合は完璧な成果を治めた」と6月29日の新聞で発表した。「次のことでそれが証明できる」と得意になり「会議招集の前には州内で日本人テロリストにより87人が暗殺された。殺害された者の数は9日から17日の間に10人にのぼった。会合から12日目を迎え、今、サンパウロに平和がおとずれた。日系社会は落ち着きを取り戻した。犯罪は無く、その徴候さえない」招集の発案者は死者の数について大げさに発表している。
 その時まで、14人が殺害され、23人の負傷者が出ている。会合のあとたしかに殺人はなかったが、2人が負傷している。暴力行為は減ったようにみえたが、マセード州執政官ははなはだしい見当ちがいをしていたのだ。
 日本人集団地では劇的な状況が展開されていた。6月30日から翌31日の明け方までに、オズワルド・クルスにおいて、大騒動が起っていた。3000人ほどの住民が日本人狩に出、勝ち組、負け組みの見境もなく、日本人を襲った。
 商人、手のあいた農民、年寄り、若者らが血気に走り、分別なしに日本人を襲ったのだ。
 「日本人を捕まえろ」「日本人をリンチしろ」と叫びながら町中を走り回った。棒切れ、包丁、鍬などを凶器にし、日本人を襲い、家や店を壊してあるいた。
 町は何日も緊迫状態におちいった。ある家には爆弾が投下され、また、放火された家もあった。人々は臣道聯盟の活動に怒りを燃やしていたのだ。そのうえ、6月30日に日本人がブラジル人を殺害したニュースが彼らをますます怒り立たせた。ことの起こりはバールでネゴという名で知られている男が殺されたたことで論争が始まった。
 言い争いの最中、臣道聯盟の会員だという日本人からもし、自分だったら、一人どころか何人でも殺すと言うのを聞いた。他の者たちは日本人、ブラジル人に関係なく、日本の敗戦を認める者は誰でも殺すと耳にしたのだ。
 「勝ち組たちの身勝手さ、恐ろしさ、殺害事実を住民たちは勝ち組だけでなく全日本人に対し本能的に怒りを募らせていった。日本人たちへの暴力は一人を襲って、さんざん痛めつけると、すぐにもう一人のあとを追うという具合だった。リンチを受けたものはその傷で、誰か見分けもつかない状態となった」

 軍隊の介入により、ようやくオズワルド・クルスに平穏が戻った。結局50人もの日本人が負傷し、何人かは重症を負った。そのうちの40人は勝ち組の者たちだった。しかし、住民たちは無分別に襲ったわけで、この市にはそれだけ勝ち組が多かったということになる。そして、日本人の集団地ではこれと同じくらいの割合で勝ち組が存在していたのだ。
 マセード州知事の予想に反して、8月には認識組の暗殺が再発した。勝ち組の狙いは前年の日本勝利をみんなに思い出させようということだった。その月にはトゥッパンとマリーリアで3人の認識組の者が殺害された。
 また、イミリン、トゥッパン、マリーリア、ブラウーナで、5人が負傷した。その後は、ちょっと間を置き、11月にブラウーナで2人殺害され、翌年サンパウロで1人殺害、1人負傷者が出た。また、10日にペナーポリスで1人殺害された。