サンパウロ市市長のブルーノ・コーヴァス氏が癌を煩っていることがわかった。まだ39歳の若さでそんな大病になること自体、かなり驚きだが、これはサンパウロ州政界、そして所属の民主社会党(PSDB)にとって、予想だにしない衝撃だったに違いない▼それは同氏が、PSDBにとって手塩にかけて育てたい政治家であるためだ。同氏の祖父はマリオ・コーヴァス氏。過去にサンパウロ市市長、サンパウロ州知事を歴任し、PSDBの創設者のひとり。民政復帰後の大統領選でPSDBの大統領候補になったのもこの人だ。2001年に任期中に癌でこの世を去ったことで印象に残っている人も少なくない。PSDBの創設時の主要政治家で子孫で、目立つ政治家がいるのはコーヴァス家くらい。ブルーノ氏はその中で最大の有望株だ。その人に病魔が襲ったのだから、党の古株の関係者や支持者は気が気ではないだろう▼そんなブルーノ氏がいることで、PSDB内の党のバランスも取れていた。現在同党は、企業家出身のジョアン・ドリアサンパウロ州知事を表に立てることで新鮮なイメージを国民に見せようとしている。だが、ややもすると極右主義者の顔色もうかがったポピュリズム的な発言もするドリア氏に対し、コーヴァス氏は一貫して、党の基本方針でもある「社会民主主義路線」を強く支持する発言が目立ち、党の古株の人たちを喜ばせてもいた▼そして、コラム子としては、やはり来年10月に行なわれるサンパウロ市市長選が気になるところでもある。コラム子の見方では、今回の病の報を聞くまではコーヴァス氏がかなり有利だろうと思っていた。やはりサンパウロ市の場合、伝統的にPSDB地盤が強いし、いくら昨年ボルソナロ氏のブームがあったとは言え、同氏のファンで構成されていた社会自由党(PSL)が仲間割れ状態している状況では、候補が人気ニュースキャスターのダテナ氏になろうが、マスコミ登場頻度の高いジョイセ・ハッセルマン氏になろうが、高齢者や企業関係者の票は動かないだろうと踏んでいたからだ▼だが、癌と診断された今となっては状況がやはり違う。ブルーノ氏の病状いかんでまったく読めない状況だ。仮に治療後の経過が良かったり、良くないながらもキャンペーンで涙ぐましい執念を見せられるようだと、同情票も見込めるであろうから勝つチャンスが広がると思う▼しかし万が一、病状が悪く選挙そのものを断念しなくてはならなくなった場合、状況は大きく変わる。その場合、PSDBがいかに有能な候補を据えたところでコーヴァス氏本人とはやはり人が違うわけだから、一緒にはならない。ジェラウド・アウキミン元サンパウロ州知事くらいの仰天のビッグネームなら市民にとってもわかりやすいアピールができるが、そうでもない限りは楽ではないだろう▼コラム子の早い段階でのサンパウロ市選予想だが、ブルーノ氏か、昨年のサンパウロ州知事選でドリア氏に僅差で敗れたマルシオ・フランサ氏(ブラジル社会党・PSB)の争いのような気がしている。前述のジョイセ氏だとボルソナロ氏と対立状態では票が厳しく、ダテナ氏ではキャスターとしても好き嫌いがハッキリと別れるタイプなので、票が安定しないだろう。あとは左派で誰が出てくるか。労働者党(PT)の候補がまだ定まっていないところが気になるが、左派の諸々の政党の支持者の気持ちをまとめられるような候補だと善戦もあるかもしれない。(陽)