10月25日付当地日刊新聞『ゼロ・オーラ』はブラジル国と他国の法制を比較する解説を掲載した。同解説は、平易簡潔かつ非常に興味深いと私は考えるので仮訳して紹介する。(以下、仮訳)
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ブラジル法曹一般は、各国の法制の相異を理由に、自国法制を他国法制と比較するのを好まない。その相異にかかわらず、四審制をもち、有罪判決を受けた被告が、すべての上訴手段を行使し尽くすまでは刑執行を先送りできるようなブラジルの法制を、他国に見出すのは難しい。(訳者注:「被告の推定無罪の原則」と「被告の基本的人権保護」を趣旨とした「広範な弁護権」を規定するブラジル国憲法の精神を反映)
【1】ブラジル
四審制。
一審は、州司法権管轄下裁判所ないしは連邦司法権管轄下裁判所。(訳者注:州は司法区裁判所、連邦は、連邦地方裁判所管轄下地区裁判所。いずれも一人制裁判所)
一審有罪の場合、身柄を拘束されることなく上訴できる。
二審は州高等裁判所、ないしは、連邦財産または連邦の利害が関与する場合は、連邦地方裁判所。
二審で有罪が維持され、判決を下した裁判所内における抗告審理手続を経て有罪が確定したならば、2016年以降(訳者注:連邦最高裁判例成立年)、刑の仮執行が許される。被告は上訴できるが、身柄不拘束の保証はない。
いくつかの裁判所では、判決決定裁判所内の抗告審理終了後ただちに刑(仮)執行の略式手続を採用する。在ポルト・アレグレ第4連邦地方裁判所が、その例である。
同事案は、連邦最高裁内部での論争の火種となっているので、2016年に成立した連邦最高裁大法廷の判例にもかかわらず、マルコ・アウレリオ・メロ判事やリカルド・レワンドウスキー判事は、二審有罪確定した被告に人身保護令を適用している。
三審は、連邦上級裁判所が管轄するが、三審からは事案のメリットの審理を行わない。いいかえれば、証拠の分析は行わず、適用法規を審理する。連邦上級裁判所の裁判は、憲法下部法規が正しく適用されたか否かを分析することを目的とする。
連邦最高裁は、「憲法違反」有無の分析に各判事が注意をそそぐ。
【2】オランダ
ブラジルと同じく、すべての上訴手段行使後に、刑が執行される。しかし、三審制で、最高裁まで達する例は多くない。
【3】ドイツ
刑執行は、二審後におこりえる。重大犯罪の場合、一審から複数裁判官で構成される、合議制法廷が開かれる。
【4】フランス
二審後、刑が執行される。三審制。
【5】イギリス
法は、裁判官が保釈金を認める場合を除き、一審有罪判決後、刑執行を命ずる。
【6】ポルトガル
オランダ、ブラジルと同様、最後の上訴裁判まで、被告は「無罪」とされる。しかし、三審制で、刑量が8年以上の重大犯罪とみなされる場合のみ、最終審まで達する。
【7】アメリカ合衆国
イギリスの例と同じく、一審有罪後、ただちに刑を執行する。ただし、保釈金ないしは刑執行猶予の可能性はある。
【8】イタリア
一般的には、二審判決後刑が執行される。
【9】スペイン
一審判決後、刑執行がおこりえる。
【10】カナダ
一審有罪後、ただちに刑を執行する。保釈金は、まれである。
【11】アルゼンチン
一審判決後、刑を執行する。ただし、乳児の母または妊娠した女性を除く。
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ポルト・アレグレ在住の杉村士朗さんの寄稿(翻訳)は、いつも難しい問題を扱っている。今回もしかり。普通の国は一審か二審の有罪判決で刑執行開始なのに、ブラジルは四審まで待つという状態が、2016年前まであった。その時に最高裁判決で、二審有罪なら刑執行開始となったため、ルーラ元大統領がクリチーバ連邦警察の建物内に収監された。世界で四審まである国はほとんどないと言われる。では「なぜブラジルだけあるの?」という質問を、こっそりと複数の司法関係者にしたところ、「いいたくないけど、それだけ間違った判決が多いってことじゃないの」という声も。えっ~、本当にそうなんでしょうか?