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むしろ「暴動」を煽りかねないボルソナロ政権の言動

ゲデス経済相(Jose Cruz/Agencia Brasil)

 「ボルソナロ政権は、むしろチリのような民衆暴動が起こってほしいのか」。ここ2週間くらい、同政権からは耳を疑うような言動が連発で、そう首を傾げざるを得ない▼その突破口を切ったのは大統領三男のエドゥアルド氏、そしてアウグスト・エレーノ大統領府安全保障室(GSI)長官の「チリのような暴動がもし起こった際には軍政令第5条(AI5)を」と、軍政時代の悪名高き法律の再施行の擁護を行なったことだ▼これは左派の国民を怒らせたのみならず、国民全体をいらだたせた。ネットの統計では94%がこの発言に否定的なコメントを行なっていたという▼だが、このこと以上にコラム子が唖然としたのは5日から6日にかけてだ。それは5日にパウロ・ゲデス経済相がボルソナロ大統領と新たな経済政策の法案を発表した際だ。この時にゲデス氏が口にした言葉の数々には唖然とさせられた。「労働者の組合活動は政治的で国を不安定にさせる」「経済危機の際には2年間は最低給与を上げない」▼これを聞いてコラム子は、「ゲデス氏は最近のチリの民衆デモから何も学ばなかったのか?」と耳を疑った。たしかに、環境問題をはじめとして失態続きのボルソナロ政権において、新自由主義経済を標榜するゲデス氏の経済路線は、国際市場的な受けも良く、同政権にとって自慢の種となっている▼とはいえ、そのゲデス氏が社会保障改革の手本にしたチリで、3週間も止まることのないデモが延々と続けられているのだ。いや、チリだけでもない。エクアドルでもIMFからの資金援助を嫌った国民が、政府が首都機能を移転させざるを得ないほどの激しいデモを起こした。アルゼンチンでも、南米の保守化の先陣を切った存在だったはずのマクリ政権が、新自由主義経済の大破綻で危機に陥り、大統領選で敗戦。左翼ポピュリズム政権を復活させてしまっている▼「市場が支援しているから、政権の売りだから大丈夫」などと、たかはくくれない状況なのだが、ゲデス氏の発言にはあまりにも緊迫感がない。事実メディアからは「この法案のままでの議会通過はまずありえない」と評判が悪い▼これに輪を掛けて、法務関係でも不可解なことが起きた。5日は連邦警察による民主運動(MDB)関係の捜査が突然行なわれたが、これが本当はジウマ元大統領を逮捕するためのものだったことが発覚。しかもこれは、連警が7月に最高裁に請求したものの突然の実施だった▼「明らかに(労働者党政権が猛反対していた)岩塩層下油田(プレ・サウ)の入札の前日を狙ってやったものだ」とジウマ氏は怒りをあらわにした。さらに翌6日の朝には、パラナ州連邦警察に収監中のルーラ元大統領の監獄に連警が侵入していたことも明らかになった▼いくら連邦政府が心待ちにしていたプレ・サウの入札を邪魔させたくなかったからといって、左派にとってのシンボル的な存在の両元大統領を威嚇して、左派の国民はどう思うだろうか。ボルソナロ氏への欲求不満を増大させるだけに過ぎないと思うのだが。もっともそのプレ・サウ自体、ボルソナロ氏のアジアでの交渉の成果がないままに大失敗してしまったが▼今はむしろ、国をまとめるために多様な意見に耳を傾けるべきときなのに、その逆に敵対する者への締め付けをより強めることばかりを考えている。これでは、起こってほしくないはずの暴動に向かうばかりだと思うのだが。(陽)