JETROサンパウロ事務所、ブラジル日本商工会議所、在サンパウロ日本国総領事館、ジャパンハウス(JH)が共催した初の「日伯イノベーション・シンポジウム」が11月18日午後、JHで開催された。業界一流の講演者26人が約4時間にわたり連続で講演や座談会をするという密度の濃いセミナーとなり、約110人が熱心に聴講・参加した。
新ビジネスモデルを生み出して急成長する新興企業「スタートアップ」の多さは、近年のブラジル産業界の特徴ともいえる。それと日系進出企業との接点を作るのがこのイベントで、JETROや商議所のイノベーション研究会などが中心になって開催した。
最初に講演したのは、孫正義氏のソフトバンク・グループが今年3月に設立発表した、50億ドルの中南米ファンド(SoftBank Latin America)のシルビア・フィルゲイラス氏だ。
「中南米には世界人口の10%がおり、GDPは中国の半分、インドの2倍にもなる。それ関わらず、インドへの投資ファンド(VC)の規模は240億ドルもあるのに、中南米にはわずか20億ドルと未開発地域。しかもフェイスブックを筆頭とするSNSやネットフリックスの利用者は世界でも指折りに多く、商品購入が実店舗からオンラインショッピングにさらに移行していくことが見込まれる。投資が少ないわりにスタートアップ創業が多いというアンバランスな状態の中に、大きな発展の可能性が秘められている」と説明した。
中産階級に向けた金融サービス(ネット銀行)のデジタル化がどんどん進んでおり、スマートフォン利用者が多いことから、オンラインバンキング利用の伸びしろが多いと見られている。同グループは11分野にわたるスタートアップ企業群に投資を重ねており、それが世界規模の「エコシステム」を形成し、相乗効果を生んでいるという。
中南米ではLoggi、volanty、KAVAK、olist、clipなど15社に投資済、20社を審査中、250社の様子見をしているという。
spventures社のフランシスコ・ジャルジン氏はブラジルの農業大国としての側面に着目した講演をし、GDPの25%が農業によってたたき出されているが、農地は国土の7・8%に過ぎず、森林や牧場は22・4%、今も天然植生地帯が66・3%を占め、開発する余地が大きい。対する米国では農地17・4%、森林や牧場が57・8%、天然植生地帯が19・9%しかなく、開発可能性が低い。「南半球にある熱帯雨林気候の農業大国は、世界で唯一。その特殊性を活かした発展がもっと見込める」との展望を語った。
飲料の製造販売をする巨大企業Ambevのイノベーション担当、ブルーノ・ステファノ氏も「ドローンを使ったビール配達も視野に入れている。規制とか考えていちゃダメ。法令は後からついてくる。罰金を怖がっていたら何もできない」という前のめりな発想を披露した。
「トラック運転手用のウーバー」とも呼称されるアプリケーションを提供するスタートアップ企業TruckPad社のカルロス・ミラCEOは自社サービスを紹介。片道しか荷物がないケースが多かったトラック輸送において、帰りの道程の荷主をマッチングするアプリを開発してビジネスモデルを大変革した経緯を説明した。
最後は、実際にスタートアップ企業と提携する日本企業による座談会。世界的な事業加速投資ファンドPlug and Play Brasilのルイス・デアロ氏(司会)は「日本と言えばテクノロジーというイメージなのに、日本企業はブラジルで何をスタートアップに求めているのか」との質問から始めた。進出企業には大企業体質がつよく、投資的な側面の強いスタートアップと温度差があり、提携が避けられがちな実態も語られた。敢えてスタートアップと提携することで伝統的な体質に風穴を開け、新陳代謝を進める取り組みも試みられている様子が座談会から伺えた。
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「日伯イノベーション・シンポジウム」では「エコシステム」という言葉で頻出した。これはスタートアップ企業の事業拡大を加速させる支援環境のこと。シリコンバレー(米国)やテルアビブ(イスラエル)、深セン(中国)などがエコシステムの整っている都市として有名。スタートアップ先進都市には投資ファンド、施設の提供者、優秀人材の紹介者、事業加速ノウハウの提供者、先進事例に詳しい法律事務所などが集まっており、それらが相互に有機的なやり取りをする中で、スタートアップの新規事業を練り上げていく。その環境のことだという。いずれサンパウロがそのような先進都市になれば、市民の生活も今より安全で便利になる?!