樹海コラム

任期一年目が終わる前から、もう選挙気分

ボルソナロ大統領とモロ法相(Antonio Cruz/Ag. Brasil)

 まだ大統領就任から1年がたっていない現在、ボルソナロ大統領はもう次回、2022年の選挙に向けて動いている。
 その動きの一つが新党「ブラジル同盟(APB)」の結党だ。自分自身がコントロールしやすい党で2期目を狙いたい。そんなところだろう。もともと、政党に腰が座らず、28年に及んだ下院議員人生でも8つの政党に所属した人物。大統領選の出馬を願うも、所属の党が公認してくれずに飛び出したことが2回。そして、自身を大統領選の候補として公認してくれたはずの社会民主党(PSL)でも、党をコントロールできずに党首ともめ、大統領就任1年と持たず離党。ようやく「自分の家」を持つことになる
 もっとも、党結党も事前に準備していたとは言いがたく、来年10月の全国市長選に間に合うかも微妙。また、PSLに残留していた方が、自身が大統領選に当選した際の下議選の大躍進の恩恵として、多大な政党支援金や選挙での放送時間も得られるはずだったが、新党ではそれも苦しい。
 そして、気の早いことに「誰を副大統領にするか」という話まで、早くも浮上している。2018年の選挙で、期限ギリギリに、二転三転の末にアミウトン・モウロン氏を選んだドタバタぶりからすれば対照的な早さだ。
 大統領府のルイス・エドゥアルド・ラモス氏はエスタード紙の取材に対し、「セルジオ・モロ法相を副候補に立てれば22年は一次選挙で圧勝」と最近語った。その発言に対し、福音派の間で「モロ氏では私たちの立場を代弁できない。もっと相応しい候補を」と反発しているともいう。
 もっとも先述したように、期限ギリギリに選出した、決して好評ともいえなかった意外な副候補候補を迎えてでさえ、ボルソナロ氏は時の勢いで当選している。有権者にとって副候補がそこまで意味を持つとも思えない。ましてやモロ氏は、依然支持する人は多くはあるものの、ヴァザ・ジャット報道や、警察の捜査中の暴力、あるいは殺害に関して刑罰を免除しようとする項目も含まれた汚職防止法により反発も強くなり、以前のような絶対的な「正義のヒーロー」像ではない。そうした現状認識が出来ずに今から「モロ氏なら安泰」を周囲が決め込むようでは、むしろそちらの方が危ないだろう。
 だいたい、国民が今、ボルソナロ大統領に望んでいるのは、「3年後の選挙対策」なのだろうか。コラム子はそうは思わない。「次の任期」ではなく、自身に権限が与えられた「今の任期」で、大統領が好んで言うところの「多数派」ではなく、多くの国民が満足するような政治を行なうことではないだろうか。景気、雇用、貿易、外交。目の前にやるべきことは山積しているはずなのだが、そこに気持ちが向かわずに、対立候補さえまだわからない「実態の見えない選挙」の準備をして何になるというのか。
 現状では、大統領選に向けて具体的に準備をしているのはボルソナロ氏と、せいぜいジョアン・ドリアサンパウロ州知事くらいなもの。まだ、多くの政党が、次の全国市長選での構想もまとまっていない状況で、対戦相手さえいない。そういう状況で「リードしている優越感」に浸って、果たして意味はあるのか。むしろ、失政や、自身の息子たちのからんだ諸々のスキャンダルで、自身の足をすくわれないよう、気をつけることの方が大事なように思われるが。(陽)

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