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中道や中道左派が、政治を三極化出来ない理由

シロ・ゴメス氏(Heloisa Cristaldo/Agência Brasil)

 「政治の二極化」。ブラジル政治がそう言われるようになって久しい。それは民主社会党(PSDB)がボルソナロ氏に取って代わろうが、労働者党(PT)が政権から降りようがその状況は変わらず、むしろ強化されているようにさえ見える。
 世論調査だけを見れば、世は「三極化」ではないが、「三分化」はされていると見ることも不可能ではない。ボルソナロ政権の現状の支持率は「よい」「悪い」「普通」がいずれも30%ほどできれいに三等分されているわけだから。
 難しいのは、現状で「誰が第3勢力なのか?」をわかりやすく示してくれる政治家がいない。PSDBのジョアン・ドリアサンパウロ州知事は本人の大統領への意欲は重々分かるが、その気持ちだけが空回って見える。タレント候補のルシアノ・フッキ氏は「未知数の期待」こそあるものの、「では、誰が支持するの?」のところが全く見えてこない。
 そして、昨年の大統領選3位のシロ・ゴメス氏も、現状で「PT候補を脅かす新たな左派のリーダー」のような位置にはほど遠く、「どの有権者を取り込むか?」のところで四苦八苦しているように、コラム子には見える。
 これは皮肉なものだ。昨年10月の大統領選で世の「アンチPT」が上回ったとき、「PTの人気はこれから下がるのでは」という予測も少なくなかった。その意味で特にシロ氏には大きなチャンスがあった。もっと言えばフッキ氏にもドリア氏にもあった。
 だが、現状で彼らは、ルーラ氏が22年に大統領選に復帰できるかどうかわからないPTほどの影響力を持つには至っていない。それはどうしてなのか。
 その答えは、「彼らが有権者の気持ちを読めていないこと」、これにつきると思う。「アンチ・ボウソナリスタたちがどうして現在の政権が嫌なのか」。その気持ちをとらえられていないからだ。
 では、それは何か。ずばり、「マイノリティの権利確保」だ。実はこれはブラジルに限ったことではない。あらゆる国で、「極右政権に反対する人」が求めているものというのは、「女性や有色人種やLGBTに優しい社会」。この点に関しては、かなり万国共通でさえある。これは別に「左派」に限ったことではなく、「アンチ・ファシズム」を主義とする人に共通して言えることだ。
 PTや、社会主義自由党(PSOL)のような政党の上手なところは、そうした「現在の反極右主義」の人たちの心情を掴むのがうまいことだ。今の国際的な時流の読みを理解しているのだ。
 ボルソナロ氏は本来、「モラルの反動化」にしか興味のない政治家で、政治や外交そっちのけで、やたら力を入れようとするのは「教育」や「人権」「文化」などへの介入まがいの行為だ。だとしたら、反ボルソナロ派の人たちにとって神経が逆撫でされるポイントはまさにそこであり、それに対する反論を大きな声で行なう政党を支持したくなってしまいたくなるのは、対立構造上、無理もないのだ。
 そこのところを、中道左派、中道、中道右派は履き違えて、なかなか主張しようとしない。だから、「反ボルソナロ派」の気持ちがつかめないのだ。シロ氏は昨年の大統領の決選投票の際、ハダジ氏を援助しようとせずパリに向かったが、あれは逆効果だった。「民主主義の保護のために戦う」。その姿勢を見せてくれれば、今以上にもっと支持を集められていたはずなのだ。
 「マイノリティの保護さえしっかりしてくれれば、政治スタイル的には別に左派のものでなくてもかまわない」。そういう人も少なくないはず。そこを「左派のもの」でなく「常識」としない限りは、有権者の支持取り付けには至らないと思うのだが。(陽)