13日、世界の映画賞の最高峰、アカデミー賞のノミネート発表が行なわれたが、この日は同時に、ブラジル政界が世界の好奇の目にさらされ続けることになることを決定付けた日にもなった。それはドキュメンタリー部門で、ブラジルの作品「ブラジル 消えゆく民主主義」がノミネートを受けてしまったためだ。
このドキュメンタリーは女性監督ぺトラ・コスタが手がけ、ジウマ大統領の罷免やルーラ元大統領への収賄罪での有罪刑執行など、労働者党(PT)政権の崩壊を描いたもの。時期でいうと、2013年のサッカーのコンフェデ杯での民衆デモから、2018年大統領選でのボルソナロ極右政権の誕生までだが、これが反PT勢力には非常に耳が痛い内容となっている。
ぺトラ監督は自身の出自を「ゼネコン企業一族出身で母親が軍政時代の学生闘士」と作品内で紹介。はじめからPT寄りであることを明らかにしながら、PT政権に降りかかった、彼女いわく「不可解なこと」に疑問を呈している。
彼女はラヴァ・ジャット(LJ)作戦に関してのPTの関与に疑問こそ呈しなかったが「政府のゼネコン癒着は今に始まったわけではないのになぜPTがツケを払わされるのか」とした上で、国民にわかりにくい「財政責任法の再犯」という形での罷免を、ブラジル与党に常についていた民主運動(MDB)のエドゥアルド・クーニャ元下院議長がLJ作戦で自分が告発されたことの復讐としてジウマ氏の罷免に動き、それに財界とマスコミが同じくMDBのテメル(当時)副大統領についた結果に生まれたクーデターだと主張した。
さらに、14年の大統領選で惜敗したアエシオ・ネーヴェス氏(民主社会党・PSDB)が敗戦を認めなかったこと、15年のJBSショックで判明した収賄現行犯疑惑で失墜したことを皮肉っている。
また、LJの成果で米国メディアからも賞賛されたセルジオ・モロ判事が、ルーラ氏の盗聴漏洩など判事として行き過ぎた行為を行なった末に、大統領選の世論調査で圧倒的に1位だったルーラ氏に有罪判決を与え、ルーラ氏の選挙出馬にダメージを与える契機を作り、それを褒美にする形で、女性や黒人、先住民、LGBTの差別発言などで問題のあったボルソナロ氏から法相就任の依頼を受けてしまうところまでが描かれている。
この作品は昨年6月にネットフリックスで全世界的に公開され、すぐに話題となり、その直後、モロ氏の判事時代の「検察との癒着」「(クーニャ氏やPSDBのカルドーゾ元大統領など)特定政治家を裁くのを嫌った」などの疑惑を携帯電話からの盗聴記録から報じた「ヴァザ・ジャット」報道も浮上。皮肉な相乗効果となってしまった。「これが11月のルーラ氏釈放につながった」と見るのも、あながち間違いではない。
さらにその間には、アマゾンの森林火災拡大の際の開き直った発言で、ボルソナロ大統領が国際的批難を浴びる事態も起き、その反ボルソナロ感情からルーラ氏への同情心が高まっていた側面も否定はできない。
そして、そこに加えてのこのノミネートだ。これは、ただでさえ左派寄りのハリウッドがこのドキュメンタリーの主張の正当性を認めたということでもあり、その上で世界にさらにブラジル政界への好奇心を高めていくことは避けられそうにない。ノミネート後、ネットフリックスでの同作の視聴回数は4400倍に上がっているという。
こと、「受賞なるか?」ということになると、他にも「戦火のシリアでの子育て」を題材にした話題作なども多いため、容易ではなさそう。だが、それでも、世界の誰もが知っている映画の祭典へのノミネートの波及効果は間違いなく大きいだろう。(陽)