ブラジル南東部のミナス州検察局は21日、昨年1月25日に同州ブルマジーニョで発生した大型鉱滓ダムの決壊事故の責任を問い、ダム所有者のVale社の元社長ファビオ・シュウォルツマン氏ら16人を殺人罪で起訴したと、21、22日付現地各紙・サイトが報じている。
ブルマジーニョのダムは、鉱物採掘過程で出る鉱物成分と水分が混じった物質(鉱滓)を水分と固形分に分離し、固形分を堆積させる施設だ。それが決壊したことで鉱滓970万立方メートルが流出。鉱滓は周辺地域を飲み込んだだけでなく、河川にも流れ込み、甚大な人的被害、環境被害をもたらした。現時点で身元が確認されている死者は259人で、行方不明者11人の生存も絶望的だ。
起訴された16人中、11人はシュウォルツマン氏を含むVale関係者で、残る5人は、元幹部のクリス・ペーター・マイヤー氏を含むTUV SUD(T)社の関係者だ。T社はダム強度の監査を担当していた。
V社とT社、さらに殺人罪で起訴された16人全員は、環境犯罪にも問われることとなる。
検察は、決壊したダムは少なくとも2017年から危険な状態にあり、V社はその情報を隠していたとしている。殺人罪には殺意の立証が必要だが、検察は、事故が起こる危険性や、事故が起きた際に想定される被害の規模を認識しつつ放置した事で殺意を立証できるとし、殺人罪での起訴に踏み切った。検察はまた、被害の大きさや、犠牲者には全く防衛の余地がなかったことも考慮し、加重量刑も求める方針だ。
ウィリアン・ガルシア検察官は、シュウォルツマン氏がダムの危険性を認識しつつ、適切な処置を取らなかったことを示す証拠が豊富にあるとしている。同検察官は「Valeには、会社として問題を隠匿する動機があり、ダムの安全性に関し、誤った印象を広めるために直接的に行動した」とも語っている。
事故発生から丸1年になる4日前に起訴が行われたことに関し、検察は偶然の一致としている。
検察は、T社元幹部のマイヤー氏の予防的拘留を要請した。検察は、同氏は捜査に協力しなかったと主張しているが、同氏の住所はブラジル国外にあるため、ブラジル法の刑事罰に問えない可能性がある。
検察は、技術者なども含まれている被疑者全員のブラジル国内での活動停止と国外退去禁止も裁判所に要請した。
サンパウロ総合大学の刑法教授マウリシオ・ステジェマン氏は、「検察の主張する、『被告たちは事故の可能性を知っていたのに、何もしなかった。そのことが事故の発生を招いた』ことの立証は簡単ではない」とし、殺人罪より緩やかな罪状で起訴する慎重さがあってもよかったとの見解を表明している。