福島県庁による「令和元年度中南米・北米移住者子弟受入研修」に参加したブラジル福島県人会青年部の佐藤レヴィさん(32、三世)と村上アガタ・サユリさん(22、五世)の帰国報告会が、2月16日午後にサンパウロ市の同県人会会館で行われ、41人の来場者が熱心に聴き入った。2人は母県の復興状況や文化体験、郷土の歴史等の視察結果を発表。報告会後のアンケートでは、9割以上が2人の話を聞いて「福島県に行きたい」と回答する等、成果が感じられるものとなった。
「福島県はもう大丈夫。ブラジルからも大勢の人に訪れてほしい」。研修内容をまとめたパワーポイントを2人が交互に読み上げ、各視察先で学んだ震災後の取組を紹介し、そう強調した。
今井由美マリナ会長は最初に同事業の概要として、福島県にルーツを持つ若者を母県に招聘し、将来、県とブラジルの懸け橋となることが望まれていると説明した。福島県が総務省から採択を受けた「中南米日系社会と国内自治体との連携促進事業」も同時に実施している。
来賓の野口泰在サンパウロ日本国総領事は、「日本政府として福島県の復興は重要。五輪で世界の人達に見てもらい感謝を伝えたい」と強調し、「今井会長が県人会の活動を活発に行うのに敬意を表する。伝統文化と復興の歩みをブラジルに伝えてほしい」との期待を述べた。
ブラジル日本都道府県人会連合会の山田康夫会長は「地震から9年が経った現状を、日系の若い人たちにも見せてあげたいという福島県庁の温かい思いが伝わってきて嬉しい」と取組を称賛した。
ブラジル日本文化福祉協会の小原彰会長補佐も祝辞を述べた他、来賓にはサンパウロ日伯援護協会の税田清七副会長や各県人会の会長らも出席した。
報告会後、福島県人会の渡辺ヴァルテル副会長は「2人はプログラムの目的を良く理解しているのが伝わってきた」と称賛し、「彼等には人を巻き込む力がある。優秀な2人なら、今回の学びを今後の県人会の活動に繋げられると思う」と語った。
今井会長は、「2人には若手を連れてきてほしい。レヴィは行く前からリーダーシップを発揮してくれ、アガタもよく手伝ってくれているので、期待している。他団体の若い人や県人会の青年部を集めて、改めてプレゼンを行うことも考えている」と今後の活動について語った。
ルーツに目覚めたレヴィさん
得意の英語を駆使して他国の研修生に対してもリーダーシップを発揮し、各視察先で積極的に学ぶ姿勢を見せていた青年部部長の佐藤レヴィさん。報告会の後は「福島県の復興への努力、県民の暮らしぶりを学べて本当に良かった」と笑顔を見せた。
また、福島県で親戚の真田順さん一家に会えたことや、文化の体験やホームステイで日本の習慣に触れたことで、「忘れかけていた自分のルーツを思い出すことができた」と喜ぶ。
今後の青年部の活動では、学んだ日本文化を体験する場を提供することを考えており、青年部の部長として「まだ福島県へ行ったことない青年部のメンバーに対しどんどん母県へ送り出したい」と意欲も見せる。また、レヴィさんは「他の日系団体とも協力してイベント等を企画し、学んだことを共有したい」という考えも語った。
学びを県人会活性化に活かすアガタさん
「初めての日本は習慣、環境、礼儀…何もかもブラジルと違って驚きの連続だった」。村上アガタ・サユリさんはそう微笑む。ホームステイ先では、「高祖父の実家があった場所を探して連れて行ってくれたのよ」とその心遣いに感動した。アガタさんの高祖父は、日本人で最初にブラジルへ移住した笠戸丸移民だ。
最も印象深かったのは、新地エネルギーセンターで見た太陽光パネルだ。「震災後に行政も協力して設置したと聞いて凄いことだと思った」と語り、ブラジルとの違いに驚く。
意見交換会で学んだ他国の取組を早速、青年部の活動で取り入れ、イビラプエラ公園でピクニックを行った。「今後も研修で学んだことを生かして、皆で若い人達を呼ぶためのイベントを行っていきたい」と語った。
体験談を聞き期待する若者たち
「発表がとても良くて、福島県に留学したい気持ちが強くなった」。二人の発表後、青年部の渡辺ユミ・フェルナンダさん(24、三世)は、そう感想を述べて微笑んだ。
2人の研修成果を聞いて「福島県庁の復興への頑張りがとても良く分かった」とし、東京五輪の聖火リレーが福島県のJヴィレッジから始まるという発表には「『福島はもう大丈夫』というアピールになる」と喜ぶ。
レヴィさんの弟、佐藤直樹テルシオさん(25、三世)は「福島と検索すると悪い内容が出てくる」とネガティブな印象が強かった。だが話を聞いて「日本は技術がある。今はもう大丈夫だと分かった」と安心した。
特に印象的だったのは、兄が自分達の親戚と初めて会ったことや、一度も訪れた事がない日本の文化だ。「いつか行ければ」と希望に胸を膨らませた。
今井由美マリナ会長の息子の今井サムエル純さん(17、三世)は、幼い頃から母親につれられて県人会に来ている。今回の発表を見て、「思った以上に復興していて技術力が凄いと思った」と驚き、「発表で知れて良かったし、いつか自分も福島県へ留学したい」と目を輝かせた。
元会長「ブラジルを良くして」
研修生2人の発表を聞いた第13代会長の大山義夫さん(85、福島県)は、開口一番に「学びの多い研修だったことが伝わってきて、とても良かった」と満足そうに笑みを浮かべた。
母県の復興への取組に対しても「技術を駆使して頑張っている」と感心した様子。今後の若者達への期待については、「学んだことをどう発信していくかが大事。日本の良い所をぜひブラジルに取り入れて、この社会を良くしてほしい」と期待を述べた。
中南米・北米移住者子弟研修中に内堀雅雄県知事を表敬訪問した研修生一行に対し、内堀知事は次のようなメッセージを贈った。
皆さん、福島県にようこそいらっしゃいました。県民を代表して皆さんを心から歓迎いたします。
2011年の東日本大震災、原子力発電所の事故から間もなく10年目に入ります。この間、中南米あるいは北米の皆さんを始め、世界の福島県人会の皆さんから、「福島県、がんばれ!」との温かい応援を数多く頂いてきました。こうした応援を頂きながら、福島の復興は着実に前進しております。
ただ一方で、福島県は、地震・津波・原発事故・風評といった複合災害に直面しており、まだまだ復興の道のりは途上であります。
そのような中、今回、皆さんには比較的長い期間にわたって、福島県の浜通り・中通り・会津地方を巡っていただき、県内全体の復興状況をご覧いただきました。その過程で、福島が誇る様々な宝物を感じていただけたことと思います。
例えば、自然環境、歴史・伝統文化、おいしい食、そして温かい人間性、こうした福島の宝について、皆さん自身が実感されたことを母国に持ち帰り、第二の故郷「福島」の現状や魅力を広く発信していただければ幸いです。
皆さんは、福島とそれぞれの母国とを結ぶ、友好の懸け橋です。是非、また次の機会に、今度は御家族や友人と共に、もう一度、福島に行ってみよう、日本に行ってみよう、そう思っていただけることを期待しております。
皆さんの今後の御健勝と母国での御活躍、そしてそれぞれの国と福島との友好交流が更に促進されることを願って、私の挨拶といたします。
福島県知事 内堀雅雄