ブラジル日本文化福祉協会(石川レナト会長)はブラジル日本青年会議所の協力をえて、講演会「ソフトバンクとAI(人工知能)/ラ米最大の技術投資基金(Softbank Innovation Fund、以下SIF)は社会にインパクトを与える」を、サンパウロ市の同大講堂で17日午後6時半から開催し、約500人が訪れ、熱心に聴講した。
司会の奥原ジョージ副会長が「初めて文協に来た人は手を挙げて」と呼びかけると、8割ほど挙手した。教育関係のNGO団体3つから数十人が招待され、本紙刊行の『O MUNDO AGRADECE! COISAS DO JAPAO』が各団体に寄付された。全体の2割以上は非日系が占めており、文協とは関わりがない青年層が大挙してイベントに参加していることが伺えた。
世界的な組織を持つ「ボストン・コンサルティング・グループ」はAIやデータ分析の専門家を集めた新組織「GAMMA」を立ち上げた。 同コンサルティング・グループが従来積み上げてきた、産業や企業、組織に対する知見に、AIやビッグデータ分析などの最先端技術を組み合わせることで、新しいビジネス・プロジェクトを生み出していくもの。
17年に設立された同ブラジル支社の経営陣の一人、フラヴィア・タケイ氏が登壇し、「私は三世で両親とも日系。家系の中で私が初めて日系以外(イタリア系)と結婚した」と自己紹介した。
本論に入り、「全ての労働者がAIの登場に不安を持っている」と切り出した。80%の労働者がAIに仕事を奪われるのではと不安を感じ、3分の1の労働者がAIによって5年以内に雇用を奪われると思っているとの調査結果を紹介した。
「人が対面で販売員教育をするのでなく、教育マニュアルをAIに教え込んで、ワッツザップを使って販売員とやり取りをさせ、教育する方法も考えられる。AIにはあらかじめ大量の社員のプロフィールも覚え込ませ、各人に合わせた言葉使いや時間割で教育を進める」というアイデアも紹介し、AIと通信手段の進歩があらゆるビジネスに変化をもたらすことを予感させた。
次にSIF副社長のフィリッペ・フジワラ氏も「私は四世、母が日系、父がブラジル人」と自己紹介し、ソフトバンク30年の歴史を概観。ラ米は世界人口の10%、そのGNPは中国の2分の1に匹敵するにも関わらず投資はわずか。米国はGDPの0・67%をベンチャー投資に回している。中国は0・58%だが、ブラジルは0・06%、ラ米平均では0・03%に過ぎない」とし、投資して本来の可能性を発揮させれば大きな成長が見込めると論じた。
質疑応答では「大量の失業者が溢れている現在、AIが導入されたらもっと失業率が上がるのでは」との質問があげられ、フジワラ氏は「むしろ逆。タクシー業界は規制によって新規参入が難しく、労働者が増えない。だが我々が投資したUBERでは100万人以上の新規雇用を生んでいる。岩盤規制を壊して、新規雇用を作り出している側面にも着目すべきだ」と語った。
終演後、来場者の斉藤アンドレさん(三世、50)に感想を聞くと、「AIが人類に及ぼす影響は、とても重要な将来的なテーマ。皆が知るべき情報が詰め込まれた講演会だった」と高く評価した。文協に来るようになったのは、一連の先端テーマ講演会が始まった昨年から。「社会全体に役に立つようなイベントをやってくれれば、今後も文協に通う」と頷いた。
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ソフトバンクの講演内容の一部は、翌日のエスタード紙にも扱われるなど、普通の日系社会イベントとはまったく違う反響を呼んだ。従来の文協イベントとは異なる層を狙ったものだけあって来場者の約8割が初来場者で、非日系の姿が多く見られ、多くが30~50代の働き盛り。従来の日本語世界中心の発想からは、考えられない新しい企画だ。文協が一般社会への存在感を高めれば、より幅広い層の会員が集まる。石川会長のもとで文協が果たす役割が、どんどん変わってきているようだ。