「新型肺炎による中国からの部品供給不足は、今はまだ大丈夫。だが長期化すれば深刻な影響が生じる」――ブラジル日本商工会議所(村田俊典(としふみ)会頭)の総務委員会と企画戦略委員会が共催した「2020年上期業種別部会長シンポジューム」が5日にサンパウロ市内のチヴォリ・サンパウロ・モファレッジホテルで開催され、そんな警鐘が発せられた。
「今、為替レートが1ドル=4・65レアルになりました」。村田会頭は冒頭、開会の挨拶で生の数字をスマホ見ながら会場に伝えると、静かなどよめきが起きた。4・50を割ったことが大きな話題になったばかりだったが、レアル下落の勢いが止まっていない不安定感が会場全体で共有された。
金融部会の発表では、半年前に同部会が予測した為替レート=3・60~3・80レアル、2週間ほど前に予測したレート=4・00~4・10レアルと発表された。予測レンジから大きく外れて下落している現実からは、金融のプロですら予測不能な激変が世界経済に今起きていることがリアルに伺えた。
「2019年の回顧と2020年の展望」(ビジネス環境改善に期待、今なすべきこと)が本来のテーマだったが、今年2月から世界拡散が本格化した新型肺炎の経済的影響が、10部門の発表の中で注目を浴びた。
3月初め現在で最も強く影響が表れていた航空業界に関して、運輸サービス部会の今安毅(つよし)副部会長は「IATA(国際航空運送協会)が試算した航空業界への影響は、全世界で293億米ドル(約3兆2807億円)。うちアジア太平洋地域の損害が278億米ドルと大半を占める。IATA事務総長は『2008年リーマンショック以来のマイナス需要を引き起こす可能性がある』との談話を発表。とにかくアジア圏内を直撃、関西国際空港の8割が欠航している。航空業界への損害は計り知れない数字になりそう」と述べた。
自動車部会では「四輪・二輪とも生産台数が回復傾向にあり好調」との発表があった。ただし、新形肺炎の影響で二輪生産拠点マナウスへの中国製部品の供給が絶たれていることの影響について質問があがり、「幸いなことに中国から遠いので、洋上在庫(船で輸送中の部品在庫)が比較的に多く、余力がある。だからまだ顕在化していない。ただし、このままサプライチェーン(部品供給網)が絶たれたままだと、将来的に影響が出る」と佐藤修部会長代理は返答した。
電機・情報通信部会の小渕洋部会長代理も、中国からの部品に納期延滞リスクがあることあげ、「長期化するようだと在庫製品・部品が底をつき、ビジネスが停滞するなどの問題が起きる可能性があり、影響を最小化するため状況把握・対策の実施が不可欠」と予防策を早急に練る必要があると警告した。
各業界とも、日本メルコスルEPA交渉開始への強い期待、同時にブラジル政府に対する構造改革(税制改革、民営化、行政改革など)を要望するコメントが次々に出された。
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「2020年上期業種別部会長シンポジューム」の機械金属部会では新型肺炎の影響に関して《一部会員の間で部品の納期が遅れていると聞いているが、今日時点で支障が出ているかといえばそこまでではない》としたが、《ブラジルのビジネス環境が数年の間に改善することは見通せない》との悲観的な推測も出された。自動車部会ではブランド別シェアで、トヨタが7位から6位に上昇したとの報告も。ただしホンダは8位から9位へ。急上昇してきたJeepに抜かれた。食品部会からも《新型コロナウイルス発生以降、ドル高が急進し、原料調達や輸出業及び国内の景況感に与える影響は不透明》《一時回復しつつあった景況感が継続するとはいいがたい》との悲観的な観測が発表されていた。