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また一つ生まれた、ブラジル政界の謎の伝説

ベビアーノ氏(Valter Campeonato/Agencia Brasil)

 先週末からのブラジル政界の展開があまりにも怒涛で、早くも忘れられがちであるが、14日午前、グスターヴォ・ベビアーノ氏が心臓発作で急死した。
 死は自宅で突如襲われ、同氏の息子の眼の前で亡くなったと言うが、これをめぐり、「本当に自然死なのか」と怪しむ声が少なくなかった。
 一つは、ベビアーノ氏が、ボルソナロ大統領一家の秘密を握っていたためだ。同氏はボルソナロ氏の大統領選の選挙参謀を務め、大統領府秘書室長官として入閣しつつも、大統領次男カルロス氏との対立でその座を追われた。
 その後、ベビアーノ氏は一転してボルソナロ一家の敵となり、生前には何度か、「ボルソナロ氏刺傷事件の日のカルロス氏による警備がめちゃくちゃだった」と、大統領選当選の決め手となった事件の、一家による狂言説をほのめかしていた。
 さらにもう一つは、ベビアーノ氏が、2022年の大統領選でライバルの一人となるジョアン・ドリア・サンパウロ州知事の民主社会党(PSDB)からのリオ市長選の候補として出馬することの内定が発表されていたこと。これから1週間もしないうちに死が襲ったわけだ。
 だが、国民としては、こうした事実よりも、これまでにブラジル政界で起こった数々の奇妙な政界絡みの死亡事件と合わせて本件に注目している人が多く見受けられる。
 例えば、軍事政権時代にはジュセリノ・クビチェック、ジョアン・グラール(ジャンゴ)元大統領の死だ。前者は不自然な交通事故、後者は飲み物に毒を盛られて亡くなったことが後に判明している。ベビアーノ氏の件が今回一部で「第2のジャンゴ」と呼ぶ向きもあるのはこのためだ。
 そしてコーラル大統領の頃には、金庫番だったPCファリアス氏。同氏はコーロル氏が罷免にあった4年後の1996年、恋人と寝ていたところを突如襲撃され、惨殺された。
 さらに、ボルソナロ陣営が労働者党(PT)を攻撃する際によく使う、2002年に起こった、大サンパウロ市圏サンカエターノ市長だったセウソ・ダニエル氏の誘拐と殺害事件。後のルーラ大統領について回ることになる大きなミステリーとなっている。
 また、2014年8月には、大統領候補だったエドゥアルド・カンポス氏の飛行機墜落事故。17年1月には最高裁判事のテオリ・ザヴァスキ氏の墜落事故。前者ではPTが怪しまれ、後者では16年3月のルーラ氏の盗聴公開を了承したことでテオリ氏から叱責を受けた、セルジオ・モロ現法相やラヴァ・ジャット作戦班に疑惑の目が飛んでいる。
 さらに言えば、ボルソナロ氏にも疑惑がないわけではない。刺傷事件に関しては、実行犯で逮捕されたアデーリオ・ビスポ容疑者が、生活費が豊かでないのに、自身の住む州から離れたところで射撃訓練を受けた上に、その訓練場にカルロス・ボルソナロ氏が少なくとも同じ場所にいたこと。そして、2018年3月のマリエレ・フランコ・リオ市議殺害事件でも、殺害実行犯がボルソナロ氏と同じコンドミニオの住人だった上に、ボルソナロ氏やカルロス氏の関与が噂されたこともあった。
 そうした流れもあったので、今回のベビアーノ氏のことも興味深かったのだが、今のボルソナロ氏のコロナウイルスに関しての世間一般の感覚からあまりに乖離した発言や、それにも伴う株やレアルの大暴落で、それどころではなくなっている。真相が明らかになるのは、遠い先のことか。(陽)