経済成長率2・2%増の予想がマイナス5%へ
3月中旬から顕在化したブラジルのコロナ禍は、5月2日現在、感染者9万6559人、死亡者6750人超となり、サンパウロ市では4月22日迄の死者が1134人だったのに対し、10日後の5月2日には2586人と急激に倍以上に増えて、極めて深刻な状況となっている。
総死者数では既に中国を上回り、各地で医療崩壊も始まっている。
特にひどいのは日系企業が多く進出しているマナウス市や、ブラジル東北部のフォルタレーザ市などで、集中治療病棟が満杯になり自宅で死亡するケースなどが多発し、医療崩壊に瀕している都市がある。
これらの地域では、墓掘り人夫が足りずにトラクターで掘った穴に、棺を三段に重ねて一緒に埋葬すると言った非人道的な対応が非難を浴びたりしているのが現状だ。
リオ市でも三人の重篤患者に対して人工呼吸器が二台しか無いと言われ、医療崩壊直前と言われる。
サンパウロ州は全罹患者、死亡者の1/3を占めるが、未だ医療崩壊までには至っていない。州知事、市長が必死にマスク着用、石鹸手洗い、外出自粛を訴えており、薬局、スーパー、葬儀屋以外は全てシャットダウンで街はまるでゴーストタウンの様相だ。
ただし、ファベーラと言われる数万人以上が住む大貧民街では、密集した住宅に加え、一部屋に大勢が寝泊まりしている事からクラスター感染の危険性が大きく、また、おしゃべり好きで、楽観的な国民性もあってか自粛が徹底されていない。
これらの地域では未だに週末の大型路上パーティーなどが行なわれており、これから冬場に向かう事もあって、更なる感染拡大は免れないのがブラジルの現状だ。
政府は緊急対策として、低所得者5400万人を対象に生活補助金として、一人当たり600レアル(1万2千円相当)を3カ月間支給する事を決定し、この為、先週から支給窓口の公的金融機関には長蛇の列が出来ており、これがまた感染拡大の要因の一つとなっている。
2020年は、インフレ見通し3%、公定歩合3・5%、為替レートUS$/4・5レアルと云った、好経済環境に恵まれ、経済成長率2・2%を見込んで(昨年は1・1%)スタートした今年のブラジルだった。ところが、コロナ禍により経済活動は大幅な停滞を余儀無くされ、GDPはマイナス5%と言う最悪の見通しだ。
経済大後退に加えて、政治的混乱も深まる
ブラジルは、コロナ禍と時を同じくして政治的混乱に陥っている。
汚職と経済的混乱に陥った労働者党長期政権の後に、国民の期待を一身に集めて誕生したボルソナロ政権は、発足1年目の昨年、歴代の政権が成し遂げられなかった年金改革に成功した。
その勢いで2年目の今年は、「税制改革」(複雑な税制を簡素化)、「行政改革」(肥大化した行政組織の見直し)、遅れている民営化計画の具体化、政財界に蔓延する汚職体質撲滅などで、成果を上げることが期待されていた。
だが相反して、コロナ禍対応への失策、そして、行政府内部での不協和音、立法府、司法府との対立等で、政府としてのガバナンスを失いかねない混乱に陥っている。問題の火種はボルソナロ大統領にある。
ボルソナロ大統領のネポチズム(親戚縁者を厚遇する言動)は昨年から指摘されて来た。37歳の息子を強引に駐米大使に就任させようとしたり(議会で否決され断念)、政治に携わる3人の息子に纏わるスキャンダルを、大統領の特権で封じ込め様としたケースが多々ある。
加えて、新政権発足時に大統領が任命した閣僚とも軋轢が生じ、コロナ禍で一致団結すべきこの時期に、重要閣僚2人が辞任すると云う事態に陥っている。
一人は、明瞭な言葉でコロナ禍対策を国民に分かりやすく説明し、支持率の高かったマンデッタ保健大臣を解任した事だ。感染拡大を抑えるべく経済活動の自粛や、ステイホーム(自宅待機)を積極的に訴えて来た保健大臣に対し、経済活動を優先する大統領が反発して大臣を罷免したが、国民の違和感は拭えない。
背後には、マンデッタ大臣への国民の支持、人気に対して大統領の羨望があったと言われる。
保健大臣、法務大臣に続いて経済大臣も辞任?
もう一人は、モロ法務大臣だ。モロ大臣は、ラバ・ジャット捜査でルラ前大統領を収賄罪で有罪に追い込み、「ブラジルの英雄」と言われた辣腕の連邦判事上がりで、ゲデス経済大臣と共にボルソナロ政権の中核を担う閣僚だった。
事の発端は、4月24日に大統領がモロ大臣に相談せずに連邦警察長官をクビにした事だ。連邦警察長官の任命権はモロ大臣にあり、大統領によって腹心の部下を、行政が司法に介入する違法な形でクビにした事に抗議して、モロ大臣も翌日に辞表を叩きつけた。
この背景には、前述の息子達にかかわるスキャンダルを捜査する連邦警察の長官を挿げ替える事で、捜査を大統領側に有利に進めようとする思惑があったと言われる。
また、両者の不仲の背景には、2022年の大統領選挙にモロ大臣が立候補するのをボルソナロが恐れたとの観測もある。案の定、大統領は4月27日には後任の連邦警察長官に息子の親しい友人を指名したが、連邦最高裁はこれを不法と見て、検察庁に合法か違法かを判断する訴えを提出した。
この結果、4月29日に検察庁が新長官の任命に待ったをかけ、この影響で一挙に株価も、為替レートも1ドル5・7レアルまで下落した。ブラジル政界がいかに混乱して居るかがお分かり頂けると思う。
加えて、現政府の中枢を担い産業界や国民からも信頼の厚いゲデス経済大臣も、大統領との距離を置き始めて居ると言われはじめた。ゲデス大臣が辞任となればボルソナロ政権は崩壊すると言われている。
政権内部のゴタゴタを引き起こし、軍政復古デモを擁護したり、的外れなコロナ禍対応を取る大統領に対して、立法府、司法府内部でも反発が生じており、一部の議員達から大統領の罷免申請が出されている始末だ。
ボルソナロ大統領は、昨年、所属していたPSL党(社会自由党)の内部のゴタゴタ問題で離党し、現在は所属する党は無い。最近の不可解な言動に加え、議会内に親派を持たず孤立無援、しかも国民からの評価も過去最低の27%まで低下しており、早々に難破しかねないボルソナロ政権だ。近々風雲急を告げる気がしてならない。
◎
【余談】コロナ禍の前と後で世界は一変するでしょう。
コロナウイルスの発生源についてはいずれ判明するでしょうが、米国との覇権戦争に勝つために中国が仕掛けた細菌爆弾と言う恐ろしい説もある。何れにせよ、戦争を含めた世界規模での大混乱は避けられないし、その後の世界は予想出来ない。
一方、コロナ騒動は、グローバル化の影響で人々が物欲に没頭し、金の亡者となり、際限の無い欲望社会を築いた結果、遂に神様が細菌をばら撒いて鉄槌を下したのかとも思える。それが証拠に、世界中で贅沢と言われている物や、薄っぺらな文化が剥げ落ち始めて居る。
豪華クルーズ船とか、高級ブランド品とか、高級グルメとか、薄っぺらな文化とか。日本の政治もコロナ禍で混乱して居る模様だ。
これを機会に、魂を失った日本人、国際社会で行き場を失った日本国をリセットする稀有な機会ではなかろうか。
何れにせよ、「人間とは?」「生きると言う事とは?」「自分とは?」を一人一人が考える良い機会を、神様が与えてくれたのかも知れない。(※ブラジル短信のバックナンバーは、http://reizotanaka.blogspot.com より閲覧可能)