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《記者コラム》「詰めが甘い」というモロ氏の弱点

モロ氏(Lula Marques)

 「5日はブラジル政界にとって歴史に残る大スクープになるのでは」。そう期待していた人も少なくなかった。だが、結局、それは起こらなかった。
 この日、2日に行われたセルジオ・モロ前法相の「ボルソナロ大統領が連警捜査に干渉した」疑惑についての供述内容が全編公開された。だが、この公開で勢いづいたのはモロ氏の側ではなく、むしろ大統領支持者だった。ツイッター上では、モロ氏が昨年、携帯電話のハッキングで発覚したスキャンダル「ヴァザ・ジャット」の際に同氏の傷ついたイメージを象徴する言葉として使われた「#DesMOROnou(モロが崩壊した)」のハッシュタグが多く踊った。減っていたはずのネット上のボルソナロ支持者の数もこの件でまた増えたともいう。
 報道が出はじめた頃は「君は27州の連警管轄だが、俺はリオ、ただ一つが欲しいんだ
との大統領の言葉も派手に大手メディアのサイトに踊っていた。それだけに、国民の冷めた反応が最初は意外だったが、コラム子もよく読めばその意味がわかった。そして「ああ、また“悪い癖”を繰り返してしまったのか」とも思った。
 「セム・プロヴァ(証拠なし)」とは、モロ氏がラヴァ・ジャット作戦の担当判事だった時代にルーラ元大統領に実刑判決を下した際によく言われた言葉だが、モロ氏は今回もこれを繰り返してしまったように思えた。
 モロ氏の場合、ルーラ氏のときもそうだったが、犯罪を起こしたとされる対象が「怪しい」とされるヒントまでは提示するのだが、そこから具体的な物的証拠を使って証明していくのではなく、一足飛びに「だから罪を犯した」と飛躍する傾向が以前から指摘されている。このことはルーラ氏の裁判の時もそうだったし、ヴァザ・ジャット報道でジャーナリスト、グレン・グリーンウォルド氏も強調して説明していた。
 今回のボルソナロ氏の件に関しても「リオ連警のコントロールに強い執着を示した」と疑惑のヒントまでは出すのだが、多くの国民が気にしていた「それは息子たちへの捜査をさせないためだ」との帰結が全く出てこなかった。
 これもすごく不思議だった。自分の肝いりで就任させた連警トップが大統領にクビにされそうな状況なら、前連警長官との間で大統領の干渉行為のことなどについて舞台裏で話していてもおかしくなさそうなものだ。
 それなのに、その証拠も提示せず、ただ大統領との携帯電話のやり取りだけで疑惑を証明しようとした。「それだけで十分、通用する」とでも踏んだのだろうか。


 コラム子は、この感覚こそモロ氏の最大の弱点であり、判事時代の同氏の裁きや判断が、司法界での先輩クラスにしばし批判されて来たところなのではと思う。自分の思いついた推論に頼りすぎて詰めがもう一つ甘い。正義感をはっきり表に出すタイプなので人気は出やすいが、司法の仕事は元来、冷静に状況判断を行って、結論を出していくものだ。
 テメル前大統領の弁護士も務めた、国内で有数の刑法学者アントニオ・カルロス・デ・アウメイダ・カストロ(カカイ)氏は今回のモロ氏の供述に関して「恥をかしほどに弱い」と酷評した。その中で「センセーショナリズムに走る傾向がある」との指摘も行っている。
 過去にルーラ、ジウマ両元大統領の盗聴暴露や、大統領選一次投票直前での元PT重要閣僚のアントニオ・パロッシ被告の暴露供述公開などで、ボルソナロ氏の当選を助けて名を挙げてきたモロ氏に対して何とも皮肉な批判だ。
 そして、モロ氏の挙げた数少ないボルソナロ氏の疑惑発言を大見出しにして強調していたのがエスタード紙とグローボ系列のサイトという、これまで「モロ応援メディア」と揶揄されがちだったところなのも、どこか象徴的だった。(陽)