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記者コラム「樹海」=外出自粛でも2週間で抗体所持率50%増の現実

インフルエンザのワクチン接種の様子(参考画像・Cesar Lopes/PMPA)

「時間を稼げば良いのだ、と少し気が楽になりました」との読者の声

 先週の記者コラム「樹海」《これからが危ない感染ピーク/でも年末にはコロナフリー?!》を読んだアマゾナス州マナウス市在住の読者からメールで、《この感染爆発中の中で、時折気がくじけそうにもなるのですが、科学的な根拠に基づく集団免疫の話を読み、感染に無意味に怯えるのではなく、時間を稼げば良いのだ、と少し気が楽になりました》という感想を頂いた。
 この《時間を稼げば良いのだ、と少し気が楽になりました》という部分に心の底から共感する。必要以上の恐怖感を持つことによるストレスは、家庭生活にも悪影響を及ぼす。コロナ離婚や家庭内暴力、タバコやアルコール摂取増などは、その最たるものだ。
 先週から聖市では徐々に商店、ショッピングセンターが開きはじめ人出が増えてきた。東洋街も広場付近を中心に賑わいを取り戻しつつある。その分、気になるのはマスクをしてない人も増えていることだ。
 日系人が多く出入りするあるバールでは毎晩、シャッターの向こうから賑やかなお客さんの談笑の声が聞こえる。非合法営業だ。隙間からチラッとのぞくと、60歳代以上の日系人がビール片手に楽しそうに飲んでいる。当然マスクなどしていない…。
 3密(密閉・密集・密接)の典型。悪い意味で「コロナ慣れ」してきている雰囲気だ。
 これでは前回書いた通り2~3週間後、6月末から7月初めに一気に感染者が激増してもおかしくない。その頃に発症して1~3週間かけて治療、もしくは悪化して亡くなる。7月後半から8月前半が死者のピークになるかも。
 そうなれば医療崩壊しなくても現在の2倍である8万人死亡、医療崩壊したら20万人死亡という米国大学の予測は、残念ながら現実のものとなる。
 その間、高齢者はできるだけ感染しないように《時間を稼ぐ》必要がある。周りがリラックスし始めても、それに惑わされてはいけない。「本当のピークはこれから来るかも」としっかり肝に銘じた方が良い。ピークが来なければラッキー。「バカなコラム子がいい加減な予測をまた書いた」と笑ってくれる展開になってくれた方がよほど嬉しい。

新型コロナウイルス感染症の国内発生動向(https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/000625626.pdf)

80代以上でも85%には大したことない現実

 大切なのは「適正に怖がる」こと。しっかりと現実の数字を見つめなおす必要があると思う。
 日本政府発表の4月28日時点の新型コロナウイルス感染症の国内発生動向によれば、表の通り、『80代以上』では1144人が感染し、166人が重篤化して131人が亡くなった。死亡率は11・1%と各年代を通して最も割合が高い。
 これを逆に読んでみたい。1144人が感染したが978人(85%)は重篤化せずに治った。罹った人のうちの15%の人が重篤化し、11%が亡くなった。
 この年代は重篤化した人のうちの3人に2人が亡くなっているという意味で、感染しないのが一番良い対策だ。
 同じ統計を使っているのに「80代以上が罹っても85%は大したことはなかった」というと危険性が薄らぐ。だが「80代以上が罹ると11%は死ぬ」と死者数を強調すると危険な感じが強くなるから、統計数値というのは不思議だ。どこに焦点を当てるかで印象に大きな差が出てくる。
 同様に『70代』を見てみると、1243人が感染して143人が重篤化し、71人が亡くなった。感染したうちの88%(1100人)、9割は重篤化せず、大したことはなかった。重篤化したのは12%で、亡くなったのは5・7%となる。重篤化しても半分以上は生還している。
 同様に『60代』では1516人が感染し、重篤化したのは119人で、亡くなったのは29人。感染した人のうちで92・2%は大したことはなかった。重篤化したのは7・8%で、1・9%が亡くなった。重篤化しても4人に3人は生還する。
 『50代』では2271人が感染し、重篤化したのは66人で、うち12人が亡くなった。感染した人のうちで97・1%が大したことなかった。重篤化したのは2・9%で、0・5%が亡くなった。重篤化した人のうちで6人に5人は生還した。
 つまり、80代以上においても85%にとっては大したことがない病気なのだ。大半にとっては怯える必要はない。後述する抗体所持者の割合からすれば、80代以上でも、とっくに感染をすませて抗体所持者になっている人もいるはずだ。

感染した人の中で重篤化しなかった人の割合

40代以下は罹っても98%が大したことない

 『40代』では2165人が感染し、重篤化したのは42人、5人が亡くなった。感染した人のうちで98・1%が大したことがない。重篤化したのは1・9%で、0・2%が亡くなった。重篤化した人の10人に9人は生還している。
 このように若い人ほど悪化しない。『30代』なら1972人が感染して、重篤化したのは9人、亡くなったのは2人。感染した人のうちの99・6%は大したことがない。
 『20代』なら2140人が感染し、3人が重篤化して死者はゼロ。感染しても99・9%は大したことがない。1千人に一人、0・1%が重篤化しても亡くなっていない。つまり40代以下においては、罹っても「ほぼ100%」、98%にとっては大したことがなく治る病気だ。
 だからといって「軽視しろ」というつもりはない。特に大家族の場合は、無症状の若者から高齢者に感染する可能性が高いから要注意だ。ただ、高齢者と同じように若者まで怖がる必要はない。
 ペストやエボラウイルスと違って、コロナが大流行しても人類は滅びない。高齢者と既往症を持つハイリスク層はしっかりと注意をすべきだが、それ以外の層は必要以上に怖がる必要はない。
 病気のリスクに応じて「適正に怖がる」ことが正しい対処法だと思う。

2週間で抗体所持者が50%増になったという報告書(http://epidemio-ufpel.org.br/uploads/downloads/19c528cc30e4e5a90d9f71e56f8808ec.pdf)

調査で判明、2週間で抗体所持者が50%も増加

 先週お伝えしたペロッタス連邦大学の抗体所持率調査(EPICOVID19―BR)の第2回調査の概要が発表された。今回は6月4~7日の間にブラジル全土133市で3万1165人に対して聞き取り調査と抗体所持検査が行われた。
 このうち調査報告書にデータが採用されたのは、無作為抽出した200人以上が調査に応じた120市。この中には27州都中の26市が含まれている。
 第1回調査は5月14日~21日に2万5025人に対して行われ、抗体所持者の割合は1・7%だった。それから2週間の今回は、前回と同じ83市で200人以上の検査ができた。その所持率の平均値は2・6%だった。つまり53%も上がるという実に衝撃的な結論が導き出された。
 スペインで行われた同様の調査では、抗体所持率は4%しか増えていないので、その10倍以上のスピードだ。いかにブラジルでは感染拡大が早いかが分かる。
 第2回調査の調査全体でみると200人以上の検査ができた120市の所持率の平均は2・8%に達しており、調査誤差を考えると2・6%~3%のどこかだ。
 この120市の人口を合計は6860万人で、全人口の32・7%に相当する。つまり、190万人がすでに感染した経験を持つ。6月7日時点の公式感染者数は68万5427人だったから、その3倍近い人数が120市だけでいたことになる。
 この感染率は大都市中心のもので、地方農村などが入っていない。「これは全国平均とはいえない」と同調査報告書はクギを刺している。
 だが6月3日時点で、この120市で確認された感染者数29万6305人、死者1万9124人。抗体所持者の割合から考えて、「実際の感染者は公式数の6倍はいる」と同報告書は予測している。
 そして前回同様「この調査結果から言えることは、ブラジルの感染者が何千人(Milhares)ではなく、何百万人(Milhoes)であることだ」と繰り返した。

州都別の抗体所持者トップ10位(EPICOVID19―BR)

リオは2・2%から7・5%へ一気に激増

 同報告書は、所持率が高い15都市中、北伯が12市、北東伯が3市(インペラトリス、フォルタレーザ、マセイオ)であることに注目する。
 逆に南伯は非常に低く、0・5%を超えた市は一つもなかった。中西部では3市(ブラジリア、クイアバー、ルジアニア)。「北伯が疫学的に最も心配される場所」と結論付けた。
 州都別に見たとき今回はロライマ州ボア・ヴィスタ市が25%と断トツの高さを見せた。州都で4人に1人が感染済みというのは他にない。人口40万人で、ヴェネズエラ人難民がたくさん流れ込んできている国境に一番近い州都として有名だ。
 10%を超えているのは他に、前回同様にパラー州ベレン市(149万人)、セアラー州フォルタレーザ市(264万人)、アマパー州マカバー市(50万人)、アマゾナス州マナウス市(218万人)、アラゴアス州マセイオ(101万人)となっている。
 第2回調査で最も注目されるのは、ブラジル第2の人口670万人を誇るリオ市だ。7・5%が抗体所持者であり、50万人以上が感染済みと見られる。第1回の調査との比較でみると、リオは2・2%から7・5%と一気に激増した。
 マセイオも1・3%から12・2%、フォルタレーザも8・7%から15・6%と軒並み激増しており、これが全体の数値を押し上げている。
 都市によってかなり感染速度に違いがあることが分かる。この調査は、あくまでも「各都市の平均値」を出す調査ではなく、「主要大都市全体の平均値」を出す調査と見た方がよさそうだ。
 ちなみに気になるサンパウロ市を見ると前回が3・1%で、今回は2・3%と下がっている。これは、サンパウロのような1千万都市だと250程度のサンプルでは平均値は出せないということなのだろう。サンパウロ市の場合は、もっとここに特化したサンプル数の多い調査をしないとはっきりしたことは分からない。
 だが、北伯や北東伯のような地方都市では、意図せずに、あと2、3カ月で集団免疫に到達するところが出てきそうな勢いだ。サンパウロ市はもう少し時間がかかる。
 それでも、重要な数字を提示してくれるものであり、じつに有難い。

ワクチンを巡る怪しいやり取り

 最近、ワクチンに関して相次いで大きなニュースが報道された。世界最先端の2大ワクチン開発事業が、今年ブラジルで治療実験を始めるというものだ。どんなに段階が進んでいても、治験はあくまで「実験」だ。完成品ではない。当然、副作用が出る可能性がある試験薬であって、ブラジル人が実験台にされるという側面もある。それが「嬉しいニュース」のように報道されていることに、そもそも違和感を受ける。
 今月第1週には、英国のオックスフォード大学が開発中のワクチンの治療実験がサンパウロ州とリオ州でボランティアを募って行うことが発表された。英国外で初の治験は、サンパウロ州とリオ州で最低5千人と発表された。
 競うように第2週、今度は中国のワクチン会社シノヴァッキ・ビオテッキが、サンパウロ州政府が運営するブタンタン研究所と提携して第3段階のコロナ・ワクチン治療実験を始めると、ジョアン・ドリアサンパウロ州知事が意気揚々と発表した。
 これに関して、生物学者のフェルナンド・レイナッキ氏は13日付エスタード紙のコラムで、これは「Um Negocio da China」だと辛辣な批判をした。これは、大航海時代に生れた表現で「とても儲かる商い」を意味する。
 大航海時代の欧州では、アジアからの香辛料や珍しい産品は高く売れ、それを扱う商人はとても儲かった。そこから「中国の商い」という言葉が生まれた。
 ただし「うまい話には裏がある」というニュアンスも含まれている。
 レイナッキ氏は書く。《シノヴァッキ社はすでに中国に、1億人分のワクチンを年間製造できる工場を建設しているのは良いニュースだ。ブタンタンは単純にその工程をコピーすればいいからだ。1年間でブラジル全国民に必要なワクチン接種をするには、100%稼働しているその規模の工場が二つ必要になる。もし第3段階の治験結果が上手くいったとして、そこから工場を建設したら6~12カ月かかる。もし先走って今から工場の建設だけ始めたら、別のリスクを負う。治験が最終的に失敗したら、全ての投資はゴミ箱行きだからだ。
 最終的なリスクは、すでに巨大ワクチン製造所であるブタンタン研究所だが、公約を守るという実績がない点だ。すでにジッカ、デンギのワクチン開発・製造を約束しているが、いまだ実行されていない。新しい疫病が流行るたびに公約をするが守った試しがない》。
 早ければ来年末には本格的な中国製ワクチン接種が開始できるかもしれないが、そのためにサンパウロ州政府は1億レアルの費用を負担することになると同氏は推測する。その上で《ブラジルはコーナーに追い詰められている。ウイルスをコントロールできている国は、急いで走る必要はない。ブラジルは違う。この「中国の商い」がブラジル国民にとっても良い交渉であることを祈る》と締めくくっている。
 EPICOVID19―BRの調査結果から類推するに、早ければ今年年末までにかなりの市で集団免疫になる。そうなれば、来年にはワクチンはいらない状態になっている可能性がある。
 識者からは「いずれにしても本格的なワクチン接種は来年の話。なんでこのタイミングで、聖州政府は鼻高々にそんな発表をするんだ?」と訝る声も聞こえる。
 いずれにせよ、「外出自粛措置をとったにも関わらず、2週間で抗体所持者が50%も増える」いう世界でも類を見ないぐらいの早い感染速度で、意図せずに集団免疫に向かっているという現実を、我々はもっと直視し、現実的な対応をした方がいいようだ。(深)