日本のプロ野球ファンのひとつのジョークのネタに「ダメ外人列伝」というものがある。これは、「高い期待を期待されながら入団したのに、活躍することなく終わった外国人選手」を揶揄して楽しむものだ。
6月30日に教育相を辞任したカルロス・アルベルト・デコテッリ氏のこの数日のドタバタぶりを見て、突然このことを思い出した。プロ野球の「ダメ外人列伝」によくあるパターンとして、「メジャー・リーグで華々しい実績をあげて、高い契約金で入団したにもかかわらず、試合にほとんど出ることなく、突如帰国してそのまま戻ってくることのなかった選手」があるのだが、今回のデコテッリ氏はまさにそれを彷彿とさせたからだ。
保守的なボルソナロ政権にとっては貴重な黒人で、しかも海軍にいながら2つの外国の大学で博士号を取得し、国内でも教鞭をとったことがある。教育相につく人材としては立派すぎるように見えた。だが、実際は博士号はとってなく、国内での教鞭経験もなく、さらに海軍といっても在籍経験はかなり短く退職金が出ない程度の期間だったということが発覚。結局、指名されてわずか5日で、就任発表をする前に自ら辞表届を出してしまった。
この話を、ダメ外人列伝にたとえるなら、メジャー通算382本の本塁打を放って鳴り物入りで太平洋クラブ・ライオンズに入団しながら、開幕戦1試合に出場しただけで終わってしまったフランク・ハワード選手を思い出させるインパクトだ。
今回のデコテッリ氏の話は笑い話として大いに盛り上がり、ここ数日のネット上は彼のミーム(冗談画像)で溢れているが、この光景を見てコラム子は思った。「ボルソナロ政権で”ダメ大臣列伝”ができそうだな」と。
だいたい教育相自体が、政権発足1年半で3人だ。1人目のリカルド・ヴェレス・ロドリゲス氏は、「授業風景を録画して教育省に送ってくれ」などの検閲的発言が問題となり3カ月で解任され、それを受け継いたウェイントラビ氏は就任年月よりも中国人に対する人種差別発言や「最高裁判事を逮捕せよ」との、およそ大臣とは思えない言動で物議を醸し、逮捕されそうだった。ギリギリのところで大臣の肩書のまま米国に事実上の逃亡。彼らの“実績”に、デコテッリ氏は短期間ながら負けていない。
また、連邦政府特別文化局長に就任した人物も負けてはいない。ロベルト・アルヴィム氏は今年1月、ナチス・ドイツの宣伝相ゲッベルスを真似た動画を作成したことにより、国民の強い反発を買って就任2カ月強で解任。それを、国民的女優のレジーナ・デュアルテ氏が引き継いだが、政治経験のなさを懸念された通りにほとんど何もやらないままテレビの生放送で軍政礼賛を主張し、これも国民から猛反発。すると「家族が恋しい」と急に言い出し、就任2カ月強でいきなり配置換え。その後、すぐに解任となった。
さらに、保健相を1カ月で辞任したネルソン・タイシ保健相。同氏の場合は、ボルソナロ大統領との衝突というアンラッキーな面はあったが、それでも国民の4人に3人が支持を表明するなど大人気だったマンデッタ保健相の穴を埋めることが全くできずに、現状まで続く保健省のコロナ対策に対しての脆弱性のもとを作ってしまった責任からは逃れられないだろう。
この他にも、現職外相でありながら「ホロコーストはなかった」「コロナウイルスは中国の陰謀」と主張し続けているエルネスト・アラウージョ氏。人権相でありながら「男の子は青、女の子はピンクの服を着る世の中」を望み、さらに職員としてネオナチ集団のリーダー、サラ・ウインター氏を雇っていたダマレス・アウヴェス氏。環境相でありながら森林伐採業者にかねてから甘いことで国際的に目をつけられ、「コロナ禍で世間の目がそれている間に環境法をゆるめよう」と提案したリカルド・サレス氏も、就任から現在まで、よく1年半も続いたものだと思わせるダメ大臣予備軍だ。
一昔前のブラジルの大臣なら、「汚職で辞任・解任」のケースがほとんどで、言動が理由になることはあまりなかった。それが今や、見てるこちらがハラハラドキドキの人事だらけ。これもボルソナロ氏の「特異な才能」のなせるわざなのか。(陽)