先週、大手週刊誌「ヴェージャ」が、「今、大統領選が行われたらボルソナロ氏が当選する」という調査結果を発表して多少話題となった。それに対し、「コロナ対策であれだけ失政をしておきながら、なぜ」と憤る人も少なくなかった。だが、「”今の状況”ならそうだろう」とコラム子は思った。
というのは、その調査を行った団体が「パラナ・ペスキーザ」という、かねてから保守寄りの調査結果を出すことで有名なところだったこともある。加えて、現時点で明確な形で世間に22年の大統領選のアピールをしているのがボルソナロ氏ただひとり、というのが大きいはずだ。
となれば、叩かれてもなおも支持する30%くらいの国民は彼の名前をもちろんあげるはずであり、そうでない人は明確な対立候補もわからないのにすぐに名前もあがるはずはない。
あと、ボルソナロ氏の場合、右翼側に他に有力な候補がいないことも大きい。ボルソナロ氏が万が一いなくなったとしたと仮定した場合に、その代わりを誰に託して良いのかわからない。「代わりがいない」ということは大きい。以前だったらセルジオ・モロ氏だったが、対立して大臣を辞めた身ではボルソナロ派はつかないし、ジョアン・ドリア、ジョアン・アモエド氏といったところもそれは同様。
一方、左派側は政治家や国民の反ボルソナロの意識が強まり、活性化してはいるものの、群雄割拠の状況で、勢力をひとりで牽引する存在がいない。その意味で、左派側からどんなに批判されようが、ボルソナロ氏が右派基盤のみで逃げ切れる状況があるのだ。
だが、これはあくまで、冒頭で書いたように“今の状況”での話だ。それをコロッと変えかねないほどのひとつの大きな関門がボルソナロ氏には迫っている。それが、米国の大統領選だ。ボルソナロ氏が現在の優勢を保つには、トランプ氏の再選が絶対条件となる。
それは、そもそもの「ボルソナロ氏の台頭」そのものがトランプ氏の産物であるためだ。「世間一般からしたら保守的で非常識かもしれないが、それが許される世の中になった」。2016年のトランプ氏の大統領選はそうした価値観の転換を世界中に促したし、それは長年の労働者党政権に対して欲求不満をつのらせていたブラジルでは特に効いた。それこそがボルソナロ氏を生み出したのだ。
だから、ボルソナロ氏がたとえ国際舞台で、環境問題やコロナ対策、中国関連の問題で国際的に不人気な言動を行なっても、「それは自分ひとりだけではない」とばかりに、トランプ氏が防波堤となっていた。
だが、いざトランプ氏が大統領選で敗れてしまうと、そうした後ろ盾を国際社会で失い、孤立しかねない。そうなると、「今の社会は極右がトレンド」とばかりに思っていた人たちも「これは”新しい常識”ではなかったのか」と、夢から覚めたように気づいてしまいかねない。これはボルソナロ氏本人もわかっているような気がするのだ。
だが、その前にすでにホワイトハウスが、「ボルソナロ氏は我が国の大統領選にはかかわらないで欲しい」との意思を持っていることが報じられた。今や、トランプ氏自身の言動さえ上回るようになった「国民に飽きられはじめた過激言動」のボルソナロ氏にはトランプ氏の応援をしてほしくないということだ。結果はまだわからないが、ボルソナロ氏にとっては、良い兆候とは言えない。(陽)