あら、これはちょっと、説明が長すぎたかしら。とにかく、そういう事情で、こちらで私は日本語学校の先生をしてますけど、それは別に、教会から命令を受けてやっているのではないの。ちゃんと、それなりの報酬を頂いて働いていますよ。あ、でもそんなこと、あなたに報告する必要はなかったわね」
「アハハハ、、、その辺りは、アヤの正直さがまともに出ているという感じだね。
なるほど、今の説明で、今まで僕の中にあった疑問が大分解けてきたというところかな。いや、僕は最初、アヤは教会の一員で、日本語学校の先生の仕事もその一部だと思っていたから、かなり、誤解していたところがありますね。となると、これからはあまりその点には気を使わなくてもいいということになるね」
「それは、どういう意味なの、マルコス。教会が後ろ盾になっていないから、これからは私にそれほど敬意を表する必要はないということかしら」
「あ、いや、とんでもない。アヤにはこれからもちゃんと敬意を表していきますから、そのご心配はありません。ただね、今まで僕は、アヤは結局将来は修道女の道を進むのかなというふうに考えていたから、何というか、ある種、近寄りがたいような存在として見ていたわけだね。でも、今の話を聞いて、何だかほっとしたような感じになったね。
もっと人間らしくなったというか、身近な人になったという感じかな。はい、そういうことです」
「何だか、苦しい言い訳のようにも聞こえるけど、でも、そういうふうに言ってもらえると私の方も気が楽になるし、私たちの会話も、もっと親しみやすい感じになるのじゃないかしら。あまり先生とか、教会の要人だというようなことを、そちらで意識してもらうと、こちらもちょっと話しにくいという感じになるから。これからはもっとざっくばらんに、お互いに友だちとして話し合ったらいいと思うけど、どうかしら」
「そうですね、僕の方もそれを希望します。でもねアヤ、急にそういうふうに、つまり友だち同士のようにすぐ変えろと言われても、簡単にはいかないと思うね。まあ、時間をかけながらだんだんそういう形に持っていくということでどうですか」
「マルコスがそういうふうに希望するのなら、それでいいでしょう。こういうことは、一々意識することじゃなく、自然に変わって行くというのが一番いいかもしれないわね。でも、ここのところ、私たちは何だか随分、いろいろなことを喋ってきているわね。これだけ話し合ってやっと、友だちの領域に達することというのは、どうなのかしら。時間をかけ過ぎているというか、お互いを理解しあうのが遅すぎるというか、とにかく、あまり普通のこととは言えないようね」
「それはね、アヤ、さっき僕が言ったように、あなたの方に責任があります」
「私には何の責任もないわ。あなたが勝手に、近寄り難いというふうに考えていただけのことでしょう。マルコスの方で遠慮しているということです」
「そうかもしれないけど、でも、アヤにはどうも、そういう雰囲気があるということも事実ですね。何といってもあなたは僕の先生ということには違いないんだから、どうしてもそこに引っかかってしまうというようなところがある」