ボルソナロ大統領は28日、国民や医療団体からの猛烈な反対を受け、前日発表した統一医療保健システム(SUS、国民皆保険制度)を民営化するための大統領令を撤回した。28、29日付現地紙、サイトが報じている。
大統領は27日、パウロ・ゲデス経済相が、保健所(UBS)を公私共同投資(PPI)の対象に含める(官民による運営を模索する)ことについて検討することを認める「大統領令10530号」を発令した。
大統領令が検討することを求めたのは、「UBSの建設工事や近代化、効率的な運営を行うための官民共同投資のあり方や代替案」で、その対象は、連邦直轄区、州、市のUBSとなっている。検討後の結論はパイロット・プランの構築とまで記している。
連邦政府側は、民間投資が入ることにより、医療機関のインフラや質を向上させることを提案している。だがそれは同時に、国民にとって高額な医療費を求められる可能性があることも示唆されていた。
この条例に対し、医療団体は次々に抗議の声明を出した。国家保健審議会(CNS)のフェルナンド・ピガット議長は、「国民が医療を受ける権利を奪いかねないものだ」と警鐘を鳴らした。「あらゆる形の民営化を避け、国民の権利を守るためには、SUSを充実させなければならない」と同議長は主張している。
サンパウロ総合大学(USP)で保健と権利に関する調査を担当するダニエル・ドウラード研究員は、「SUSの中にあるものを民営化することは憲法違反にあたる行為だ」と語り、ジェツリオ・ヴァルガス財団のアナ・マリア・マリク研究員も、「UBSは保健システムの根幹ともいうべきもの。保健システム以外のことに関心を持つ民間部門とパートナーシップを組むことには、注意に注意を重ねる必要がある」と問題視した。リオ連邦大学で公衆衛生を専門とするリジア・バイア教授は、「保健衛生に関する知識を持たないゲデス経済相に保健システムのことを任せるなんて」と呆れ顔で語った。
政界からも、ロジェリオ・コレイラ下議(労働者党・PT)が「コロナのパンデミックの最中にSUSの入り口ともいえるUBSの民営化とは何事だ」と憤り、大統領令を差し止めるための法案を提出したのをはじめ、次々と不満の声があがった。サンパウロ市市長選で世論調査3位のギリェルメ・ボウロス氏(社会主義自由党・PSOL)も「大統領は、全国に3万9千ある家族の健康を守るための保健機関を経済相のスタッフの手に渡し、交渉のモデルにしようとしている」として連邦政府を強く批判した。
これらの批判の声に押される形で翌28日、大統領は条例を撤回した。今回のSUS民営化に関しては、発表されてからツイッター上の話題を独占していた。「アルキメデス」調査機関が行った統計では、この件に関するツイートの98・5%は批判的な内容だったという。
大統領令撤回は28日付官報に掲載されたが、大統領はそれに先立ち、「4千以上のUBSと168もの緊急診療所(UPA)が未完成のままだ。いずれも、建設費や医療器具の購入、医療従事者の確保などに必要な資金が足りないために起きている」「大統領令は、未完成の医療機関を完成させ、国民が国の経費で民間の医療機関を利用できるようにすることを願ったものだった」などと書いたツイートを流し、大統領令を正当化しようとしていた。