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《ブラジル》難しいSelic判断=インフレ抑制と景気高揚の狭間で=かさむコロナ禍対策費の重み

困難なかじ取りを求められている中銀のカンポス・ネット総裁(18日付エスタード紙電子版の記事の一部)

 【既報関連】コロナ禍に伴う種々の対策費と経済活動低下が基礎的財政収支の赤字増額を余儀なくする中、緊急支援金の減額と食料品を中心とするインフレが庶民の購買力低下を招き、第4四半期の経済は減速との予想も出始め、経済基本金利(Selic)の調整がより困難になっている。
 第4四半期の経済減速予想は中銀のブルーノ・セーラ通貨政策担当理事が18日に語ったものだが、同日付エスタード紙は、公的負債が増えた事でSelicの調整が従来以上に難しくなっている事などを報じた。
 Selicは、中銀通貨政策委員会(Copom)が経済活動の現状やインフレ率などを加味して調整する。経済活動が落ち込んだ時は、融資やローンの利用を容易にして景気を刺激するために引き下げられるが、インフレが亢進する時は、融資やローンの利用を抑制し、消費熱を冷ますために引き上げられる。
 そういう意味で、コロナ禍で落ち込んだ経済活動が回復に向かい、インフレ再燃という状況が生じれば、Selic引き上げも十分あり得るが、現在のブラジルでは容易に引き上げられない。
 というのは、経済活動の落ち込みや年利2%という過去最低のSelicその他の理由で、外国人投資家による投資が大幅に減っている上、公的負債が国内総生産(GDP)の96%という、これまでにない額に膨れ上がっているからだ。

 公的負債は2025年までにGDPの100%に達する見込みだ。しかも、世界3大格付会社がブラジルの格付を引き下げて以来、ブラジルは長期国債を発行できない上、大量発行で利子負担が重くなっている。このような状況でSelicを引き上げれば、利息の支払額が増し、公的負債がさらに拡大するという悪循環を招く。
 他方、インフレをこのまま放置すればスーパーインフレが起こる可能性がある事はゲデス経済相も懸念している。また、新型コロナウイルスの感染が再拡大し、死者も増加し始める中、緊急支援金継続を要請する声が高まっており、ゲデス氏も「第2の波が来れば継続を認める」と発言し始めた。
 第2の波をどのような形で防ぎ、抑え込むのかは検討段階に過ぎず、金融機関のアナリスト達もまだ、12月のCopomでもSelicは据え置かれると見ている。
 だが、経済省が17日に今年のインフレ率(全国消費者物価指数、INPC)予測を4・10%に引き上げ、2021年の最低賃金を見直す必要に駆られたのも実情だ。17日の最低賃金見直しで、国庫の負担額は74億レアルの増額となる見込みだから、来年度予算は別の部分で経費削減を行う必要も生じる。
 第4四半期は原材料などの調達が困難で工業製品の価格が上がる可能性もあり、インフレ制御は不可避だが、景気刺激の必要や公的負債増額を考えれば、Selicは安易に調整できない。ゲデス氏は予防接種が完成すれば景気はV字型で回復というが、現状はそんなに簡単ではなさそうだ。