「これでは左派は分断だ」――そう思える出来事が、11月29日の全国市長選で起こった。それがペルナンブッコ州の州都レシフェでの市長選だ。この選挙で当選を果たしたのはジョアン・カンポス氏(ブラジル社会党・PSB)。
まだ弱冠27歳の若者で、ペルナンブッコ連邦大学卒。父は2014年の大統領選の真っ只中に飛行機事故で亡くなったエドゥアルド・カンポス氏。左派・労働者党(PT)と右派・民主社会党(PSDB)の二大政党時代を終わらせるべく、中道左派として「第三勢力」を自称して立ち上がり、選挙戦中の世論調査で3位となる中、52歳の若さで突然亡くなった。そのエドゥアルド氏の遺児ということもあり、周囲の期待は嫌が応でも高まっている。
そんな彼だったが、今回の選挙で残念なことにダーティなイメージがついてしまった。それは、対抗馬のPT候補、マリリア・アラエス氏(36歳)に関してのフェイクニュースを拡散することで勝利を収めてしまったためだ。
この戦略は18年の大統領選時にジャイール・ボルソナロ氏がフェルナンド・ハダジ氏(PT)を破った際に使った手段として有名になってしまったやり方。PTや左派の人たちにとって、ネガティヴな印象の強いやり方で勝った。しかも相手は、いとこにあたる人物で女性。これでは、本来逃したくない左派支持を掴むのは苦労しそうだ。
そんなジョアン氏に関して、さらに左派が嫌いそうな話がある。それは、彼の恋人がタバタ・アマラル下議(民主労働党・PDT)であるということだ。タバタ氏はジョアン氏と同じ27歳の気鋭の政治家で、サンパウロ市のバスの運転手の娘から苦学して米国の名門ハーヴァード大学に進学した才媛で、18年の下院選の当選時にかなりの話題を呼んだ。
期待値の高かった彼女だが、2019年、所属のPDTの反対を押し切って社会保障制度改革法案に賛成票を投じてしまった。これがもとでPDTを危うく破門されそうになり、左派支持者からはSNSのフォロワーを大量に失うなどの試練を受けている。
ジョアン氏も18年の下院選で当選しており、2人は共に下院の若手グループを牽引し、議会内の中道左派の若手リーダー格になっていることも伝えられていた。
加えて、米国の大統領選で、強い影響力を誇ったトランプ氏の前に立ちはだかったのが民主党穏健派のジョー・バイデン氏だったことで、「中道左派」に国際的に追い風が吹いている状況もある。
だが、そんな時期だからこそ、ことは慎重に運んで欲しい。
ただでさえ、「二世議員」と「エリート大卒」では本人がどう主張しようと権威的なイメージを持たれがち。そのイメージで中道の支持は取りやすくなるかもしれないが、このままだと貧困層や社会的弱者、若者や進歩的なものの考えの人はサンパウロ市市長選で大健闘したギリェルメ・ボウロス氏(社会主義自由党・PSOL)のような人を求めてしまうだろう。
そうならないための心がけが今後、彼らには必要とされるだろう。(陽)
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