サンパウロ市教育ネットワークの4つの学校の生徒たちは11月16日、在サンパウロ日本国総領事館(桑名良輔総領事)の池田泰久広報文化班領事を講師とするオンライン授業を受講した。これは、ブラジル外務省サンパウロ事務所(ERESP)が協力する、国連における外交官の役割を公立学校生徒に疑似体験してもらう授業シリーズ「Monuem」の一環だ。今回の授業内容は、『持続可能な開発目標(SDGs)-貧困を根絶し、地球を保護し、人間の平和と繁栄のための国連行動計画-』実現に向けた日本のイニシアティブについて。SDGsは、2015年9月の国連サミットにおいて全会一致で採択されたもの。持続可能で多様性と包摂性のある社会を実現するために、2030年を年限とする17の国際的な大目標を設けた。この分野における日本政府の取り組みを、公立学校の教師や生徒に知ってもらうために今回授業が行われた。
在サンパウロ日本国総領事館は、聖市北部ジャルジン・シダーデ・ピリトゥーバ地区にある市立ギオマール・カブラル学校を舞台に行われているMonuem―ERESP事業を支援している。
14歳から18歳までの約30人の生徒が参加したこの授業は、サンパウロの市立と州立学校、商業技術専門学校で企画された計画の一部だ。サンパウロ市立学校では、グローバル・アティテュード研究所とともに、ブラジル外務省サンパウロ事務所、市教育局、市国際関係局と共同でこの計画を実施している。
この計画に参加するのはギオマール・カブラル学校に加え、同市北部ヴィラ・アウローラ地区のアウヴェス・ヴェリッシモ学校、同市東部シダーデ・チラデンテス地区のオズワルド・アラーニャ・バンデイラ・デ・メロ学校、同市東部サン・ミゲル・パウリスタ地区のダルシー・リベイロ学校。
池田領事はこの授業へ参加するにあたり、生徒の対話を重視し、「SDGsとは何か」「SDGsに関連する日本のさまざまなイニシアティブ」「私たちの社会と未来を改善するためにできる行動」の3部に分けてプレゼンテーションを行った。
世界中に広がった新型コロナウイルス(COVID-19)がもたらした変化は何かを問いかけた上で、医療システムの脆弱性やオンライン授業、社会的距離、心理的および精神的な問題の増加、うつ病、不安、クアレンテーナ、政府の非常事態宣言、インターネット使用の増加、食事宅配サービス、経済危機、失業の増加、女性に対する暴力の増加などに言及した。
さらに、これらの問題がブラジルだけでなく、世界各国でも起きたことをスライドで示し、新型コロナウイルスによって引き起こされた変化をSDGsに関連付けた。
新型コロナが拡げた社会問題解決にSDGsを
「これまで見てきたように、SDGsで設定された17の目標は、新型コロナウイルスの拡大によって引き起こされたいくつもの問題と関連しています。つまり、多くの社会問題は17の目標と関連しています」と領事は述べた。
SDGsは、2015年9月の国連サミットで世界193カ国の国連加盟国に採択されたことを振り返り、「17の目標は、2030年までの達成を目指す普遍的目標です。これは、開発途上国または先進国に関係なく、地球上のほぼすべての国で採用されている国際的な目標です。実際、SDGsはより重要なテーマで構成されており、『誰も取り残さない』というのがスローガンです」と領事は説明。「しかし現実は、残念ながら、世界中の多くの人々が取り残されています」と付け加えた。
さらに「2015年に国連でSDGsが採択された後、日本政府はその実施に向けて、まずは国内基盤整備に取り組みました」と説明した。2016年5月には総理大臣を本部長、官房長官、外務大臣を副本部長とし、全閣僚を構成員とする「SDGs推進本部」を設置して、国内実施と国際協力の両面で率先して取り組む体制を整えた。
この本部の下で、行政、民間セクター、NGO・NPO、有識者、国際機関、各種団体等を含む幅広い関係者で構成される「SDGs推進円卓会議」を開催し、今後の日本の取り組みの指針となる「SDGs実施指針」を決定した。
日本政府は、2016年の策定以降初めて2019年に「SDGs実施指針」を改訂し、これに基づき、昨年末の『SDGsアクションプラン2020』を決定した。「この計画は3本柱で構成されており、日本が2030年までの残りの10年間に取り組む重要な目標です」と領事は強調した。
3本柱である「ビジネスとイノベーション~SDGsと連動する「ソサエティ5・0」の推進~」「SDGsを原動力とした地方創生、強靱かつ環境に優しい魅力的なまちづくり」「SDGsの担い手としての 次世代・女性のエンパワーメント」を含め、「日本のSDGsモデル」に関するの情報が多くの人に知られるように日本政府が尽力していることにも触れた。
池田領事はまた、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の実現に関連して、新型コロナウイルスに対するブラジルの感染抑制と医療システムを強化するため、日本からの医療機器寄付が10月末にブラジリアで発表された件になども説明した。
このUHCとは、「全ての人が適切な予防、治療、リハビリ等の保健医療サービスを、支払い可能な費用で受けられる状態」のことで、SDGs達成の重要課題と考えられている。
最後に領事は、自身の経験に触れて、プレゼンテーションを終了した。 「18歳の時は、今ここで皆さんと一緒にポルトガル語で話しているとは想像もしていませんでしたが、私は幸せです。 一歩踏み出せば、夢は叶えられます。SDGsもそうです。この授業で学んだことを思い返し、そのメッセージを実践していただきたいと思います。 誰も取り残さないでください」と締めくくった。
日伯の絆を確かめた開会式
10月30日に行われた開会式では、グローバル・アティテュード研究所のロドリゴ・レイス理事が、在サンパウロ日本国総領事館が外交団としては初めてこの事業に協力していることを強調した。実施にあたり、ピニェイロ・ネット弁護士事務所、ジャナイナ・リマ市会議員、ブラジル・アラブ商工会議所も支援した。
その際、池田領事は、「総領事館にとって、この非常に重要なMONUEM-ERESPに参加できたことは光栄です。ブラジルと日本は地理的に離れていますが、長い歴史があります」と、両国の関係について言及した。
「今年は日伯修好通商航海条約が締結されて125年を迎えます。この節目の年に共同事業を通して、新世代に日本を知って興味を持って頂き、両国の関係強化に貢献してもらいたいです」と続けた。その後、伝統と未来が交わる今日の日本を紹介するビデオが上映された。
池田領事はプレゼンテーションの最後に、日本についてもう少し知りたい人たちのために、日本政府主導で開設されたジャパン・ハウスが10月に再オープンしたことを伝えた。
初中等教育局(DIEFEM)のカルラ・ダ・シウヴァ・フランシスコ局長は、「毎回、参加する学校が増えています。この計画を高校に拡大できることは、サンパウロ市の教育ネットワークにとって大きな喜びです。この教育の段階は小さなネットワークであり、教える学校は9校です。私たちにとって、すべての学校がこの計画に参加することが重要です」と述べた。
さらにフランシスコ局長は、「他のグループと既にMONUEM-ERESPに携わっている私たちは、経過を確かめる中で、この活動が学校という枠を超えて生徒の視野を広げ、人生にポジティブな影響を与えることを知っています」と指摘した。
サンパウロ市の国際関係コーディネーターであるロドリゴ・マッシ氏は、ピニェイロ・ネット弁護士事務所のアンドレ・ベルニーニ氏と、総領事館を代表した池田領事に、「この計画に参加してくれた寛大さ」について特別に言及した。
「サンパウロ市は、日本の存在感と日系人コミュニティを非常に誇りに思っています。世界では他に2都市にしか設置されていないジャパン・ハウスという素晴らしい施設を有することは、大変名誉なことです。リベルダーデ地区にはブラジル日本移民史料館、イビラプエラ公園には美しい日本館があり、誰もがこれらの場所を訪れて、ブラジルと日本を結びつける人々の絆を知ることができます」と断言した。
マッシ氏は2004年に大学で国連のシミュレーションを体験する機会があり、それが「自分の人生にもたらした変化」について、絶対的な確信をもって冷静に語ることができるという。
「同年から2017年まで、ブラジル外務省サンパウロ事務所にインターンとして入ることができて嬉しかったです」と回想し、「プロジェクトが市の教育ネットワークに統合されるのを見るのはとても充足感があります」と付け加えた。
ガーラ大使が総領事館に感謝
ブラジル外務省サンパウロ代表事務所の副所長であるイレーネ・ヴィーダ・ガーラ大使は、「計画から2年半後には、より一層充実したものとなっています」と話し、「私たちと手を取り合う最初の総領事館」として感謝した。「あなたたちと一緒の出発点から、私たちはさらに多くの人々に手を差し伸べ、パートナーと恩恵を受ける生徒の数を増やします。 私たちを信じてくれてどうもありがとう」と大使はコメントした。
2学期の授業は9月28日に始まった。約1時間30分の授業では、一般的なプレゼンテーションに合わせて、SDGs、外交と多国間主義の基本概念、演説と論証、手続きの規則(スピーチの種類、質問と提議)、公文書の作成、 国際交渉、仕事のスケジュールの精緻化といった内容が取り上げられた。
最終回となる12月11日のミニフォーラムと合わせたプログラムの内容は、模擬国連を予定している。 日本代表団の代表は、ギオマール・カブラル学校の生徒であるリンダ・ミエコ・デ・アルメイダさんとなる。(ジョルナル・ニッパキ紙のアウド・シグチ記者取材)