ブラジル国内で101年の歴史を誇る自動車メーカーのフォードが11日に突然、国内3工場での生産活動を年内に停止すると発表。寝耳に水だった労組や地元を中心とする政財界関係者らの間に激震が走った。12日には従業員による抗議行動も起きており、波紋は大きいと11、12日付現地紙、サイトが報じた。
同社は1919年4月24日にブラジル初の自動車メーカーとして創立。設立52年目のサンパウロ州サンベルナルド・ド・カンポ工場を2019年に経営低迷から閉鎖した。だがバイア州カマサリ、サンパウロ州タウバテの2工場で乗用車や部品、セアラー州オリゾンテ工場ではジープを生産し続けていた。
昨年の国内シェア(乗用車と商用軽車両)は7・14%で、5位だった。ブラジル工場は閉鎖するが、アルゼンチンとウルグアイで製造する車両の輸入販売は続ける。国内の顧客向けの保守や各種の保証も継続される。バイア州の製品開発センターとサンパウロ州の南米地区経営本部と試験センターもそのまま維持する。
同社によると、生産活動停止の直接的要因は、新型コロナのパンデミックで生産活動と販売の落ち込みが顕著になった事だというが、「ブラジル・コスト」と呼ばれる生産コストの高さなども遠因という。南米地区での業績は2013年の経済危機以降、低下傾向にあり、米国本社が経営を支援していた。それに拍車をかけたのが現地通貨の価値低下で、パンデミックが南米地区の販売低下に輪をかけた。
ブラジルでの生産停止とアルゼンチンでの生産体制再構築の影響は直接雇用だけで5千人規模に上る見込みだ。アルゼンチン工場もブラジル生産停止の影響で人員が削減されるが、生産活動は続けられる。
同社の国内従業員は6171人おり、金属労組によると、タウバテ工場では830人が解雇される見込み。オリゾンテの工場では470人が働いている。カマサリ工場ではKaとEcoSportの2車種、タウバテ工場ではエンジンとトランスミッションを生産しているが、両工場では在庫用の部品生産ライン以外が直ちに閉鎖される。オリゾンテ工場も下半期に閉鎖される予定。国産車の販売は在庫がなくなり次第、終了となる。
アルゼンチンやウルグアイからの輸入車種は、TransitやRanger、Bronco、Mustang Mach1となる予定だ。
100年以上続いたブラジルでの生産活動停止は大きな痛みを伴う決断だが、健全で持続可能な事業を続けていくために世界規模で進めている再構築の過程の一つだ。同社は昨年、11万9454台を販売したが、この数は前年を39・2%下回る。ブラジル全体の自動車販売は前年比28・6%減の161万5942台だった。
サンベルナルド・ド・カンポ工場は19年10月に建設会社のサンジョゼとFRAMカピタルに売却され、人気車種だったFiestaやトラックの製造と販売が止まった。同工場では2350人が働いていたが、経営管理部門の1千人以外は皆、解雇された。
同社では、オーストラリアやフランスでの工場閉鎖や、欧米諸国での人員整理も続いている。