ボルソナロ大統領は12日、米国の自動車大手フォードがブラジルで生産終了すると発表したことについて訊かれ、「彼らは隠しているが、本当は助成金が欲しかったんだ(Faltou a Ford dizer a verdade, né? Querem subsídios)」と発言して物議を醸し、業界団体からの厳しい批判を浴びた。12~14日付現地紙、サイトが報じている。
先の言葉は、フォード社が前日11日にブラジルの工場閉鎖を発表したことに関して取材を受けたボルソナロ大統領が12日に口にしたものだ。
大統領はそこで「フォード社が隠していることがひとつある。それは、彼らがブラジルでの事業継続をたてに、もっと補助金を受け取ろうと考えていたということだ」と語った。
大統領は、ここ数年間の同社への補助金は200億レアルに上ったとし、「君たちは私に、過去数年間そうしてきたように、200億レアルに上る補助を続けてほしいか? 君たちの金と税金なんだぞ。それは無理だ」と語った。
だが、この発言に対し、自動車業界が反論している。全国自動車工業協会(Anfavea)のルイス・モラエス・カルロス会長は13日、「自動車業界は財政支援が欲しかったわけではない」として大統領発言を否定した。「Anfaveaとして提案を行っていたのはブラジル・コスト削減策だ」「ブラジル・コストは国内企業の国際競争力を大きく損なっている」と強く反発した。
「ブラジル・コスト」は以前からから、産業の成長を阻害する要因として指摘されている。ブラジルは税負担が重い上、認可などの手続きが煩雑で、物資輸送などのロジスティックやエネルギー関係の経費に莫大な金がかかるという、一朝一夕に解決できない欠点がある。このブラジル・コストは、外国企業がブラジルに進出する際の問題として度々指摘されている。
また、フォードが生産終了を決めた背景には、直接言及された「ドル高」や「コロナ禍での産業不信」といった理由以外に、ブラジル・コストの問題があるといわれている。
今回のフォード工場閉鎖で問題となるのは失業者の増加だ。業界5位を誇る売り上げの方は、輸入・販売を継続することが決まっており、打撃は軽減されているが、タウバテー(サンパウロ州)、カマサリ(バイア州)、オリゾンテ(セアラー州)の国内3工場が閉鎖されることにより、直接雇用者だけで5千人ほどが解雇される見込みだ。
同社工場がある地域では、間接雇用も含む雇用の喪失や、同社の活動と関連する税収減などを懸念する声も高まっている。さらに、国内生産を打ち切るならと、購入予約をキャンセルする人も出てきており、販売店などへの影響も避けられない。
これに対し、中央統一労組(CUT)内の全国溶接工連盟のパウロ・カイレス会長は、「今回のフォード生産終了は、ボルソナロ政権の無能さの象徴だ」として、厳しく批判している。
CUTと強い結びつきのあるルーラ元大統領も11日、フォードの件に関して言及した際、自身のツイッターに、2009年にフォード社がブラジルに40億レアルの投資を発表したことを報じるグローボ紙のネット記事のリンクを貼り、ボルソナロ氏を皮肉っていた。
フォードは南米での工場展開を終えるわけではなく、今後はアルゼンチン工場などを中心とした南米展開を継続。そのため、「アルゼンチンとの競争力に敗れた」との観点でボルソナロ政権を批判する声も出ている。