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そして、すべては振り出しに戻った

リラ氏(Marcelo Camargo)

リラ氏(Marcelo Camargo)

 「結局、あのときのデモは一体なんだったんだろう」。今回の下院、上院議長選を見るにつけ、そう思わずにはいられない。
18年の大統領選の際、「もう不正に溢れた古い政治はこりごりだ」と、伯国旗の緑と黄色の服をまとってボルソナロ氏を支持する行進をした人たち。いや、その前の2016年にジウマ政権打倒を求めてデモをした人たち。
さらに言えば、2013年のサッカーのコンフェデ杯の際に毎日抗議活動を展開して世界中の注目まで集めた人たち。そうした人たちにとって、今回の議長選の結果、伯国政治がたどり着いたものに満足な人はどのくらいいるのだろうか。
「古い政治の打倒」を叫んで支持を得たボルソナロ大統領は結局、「政界で最も汚い」との悪名高い中道勢力セントロンにすり寄り、自身の推すアルトゥール・リラ氏(進歩党・PP)を通したいがあまりに、コロナのパンデミックでただせさえ金が足りない中、285人もの議員に総額30億レアルもの議員割当金などの開放を約束した。
 「金を渡しての政党や連邦議員との談合」はブラジルでもっとも典型的に繰り返される手口だが、これのどこが「新しい政治」なのだろう。
 そもそもボルソナロ氏に「新しい、きれいな政治」を期待する方が違和感があるとコラム子はかねてから主張してきた。もとが、ラヴァ・ジャット作戦で最も捜査対象の多い進歩党(PP)に10年以上も在籍し、現在服役中のセントロンの祖、エドァウルド・クーニャ元下院議長とも懇意だったような存在だ。
 その下地があって、人種や性別的的マイノリティに侮蔑語を吐いてきたような人物だ。こういう帰結になることは全く不思議なことではない。
 そしてボルソナロ氏が推薦したリラ氏の悪評もかなりのものだ。ラヴァ・ジャット作戦で捜査対象となっているのをはじめ、地元のアラゴアス州でも政治家だった自身の父親と共に汚職疑惑がある。さらに元夫人からは家庭内暴力の容疑で訴えられ長期にわたって裁判沙汰となり、銃所持の登録を最高裁から禁止されたとの逸話まである。
 下院議長の経歴としてはいかがなものかと思うが、それでも大金を渡されれば当選させてしまうところにブラジル政治の脆弱さを見る。
 これでボルソナロ氏や支持者たちが自分の主張を「正義」、対抗勢力を「悪」とする物言いは通用しなくなるだろう。
 残ったのは「どんなことをしてでも保守的な価値観を保持したい」という気持ち、それだけだ。こうした「仲間内」の支持は固いかもしれないが、今のままでは彼らに共感を示してきた浮動層も、以前のようにはなびかないだろう。
 ボルソナロ氏がセントロンと一蓮托生になればなるほど一般人気は冷え込んでいくだろう。ただ、もうそうするしか罷免を回避する道がなくなっているのも同氏のつらいところだ。(陽)