「相談者の多くは身近に相談できる人がいないと訴え、孤独感をかかえています」――在日ブラジル人の就労問題に詳しいサンパウロ市在住の臨床心理士の中川郷子さんは、5ヵ月に亘るオンライン心理プロジェクトをそう総括した。昨年12月19日にアレッセ高岡(青木由香理事長、富山県所在)主催のオンラインセミナー「コロナ禍のオンラインカウンセリング支援で明らかになった南米ルーツの人々の抱える課題について」の中で、中川さんはこの報告を行った。パンデミックの中、在日ブラジル人たちがどんな悩みをかかえているか。動画の発表を元に、中川さんに電話取材で補足した。
同プロジェクトは富山県で外国ルーツの子供達に学習支援を行う団体アレッセ高岡の発案で、オンライン資金調達サイトのレディーフォーから助成金を得て、8月から12月18日に実施した。日本各地に住むブラジル人に対し、中川さんはオンラインでカウンセリングを48人、合計321件行った。
相談の多くは家庭環境や恋人関係の悩み、子どもからは周りの友達と仲良くできないなどの人間関係の悩みが寄せられた。近隣のブラジル人と交流はあるが悩みを打ち明ける程親密な関係は持って居ない様子であった。
相談の中にはうつ病の症状23件、不安障害31件、パニック障害6件に分類される相談もあり、明らかに精神科への受診が必要な人や既に通院している人からも相談が寄せられたという。
通院中の人の中には、日伯の精神医療システムの違いに戸惑いを感じている様子。通院中の人の中には「たった5~10分で診察が終わり、あまり話を聞いてくれない。伝わってるかわからない」と不満を募らせ、服薬後の不調も相談しないという人がいたという。
両国の精神科の違いについて取材すると「私の知る範囲でブラジルの精神科医の多くは40分、初診には1時間以上かける場合もある」と中川さんの知る身近な精神科医を例に説明する。
一方日本の精神科外来はあくまで薬の処方や助言のための診断となる。「じっくり話を聞く」カウンセリングは病院で別に用意している場合もあるが、行っていないのが現状のようだ。
また、オンラインカウンセリングを機に精神疾患があることに気づいた人も身近に精神科病院がない場合や、初診に紹介状が必要など「まずどこに行けばいいかわからない」と精神科診察にたどり着けない例も少なくないという。
駐日ブラジル総領事館に医療・心理相談支援窓口や、ブラジル人支援団体による電話サポートなど心理サポートもあるが、全国的に見ると受け皿はまだ少ないようだ。
相談者も日本国内の心理・精神臨床の資格に対し先入観的な不信を抱いていたり、情報漏えいの心配から「日本のカウンセラーよりブラジルのカウンセラーがいい」と考える傾向もみられた。
女性、在日5年以内、ハーフ、愛知在住が最多
相談者は男性7人と女性41人と女性が圧倒的に多かった。一方で年齢層は10歳未満から60歳以上と幅開い層が参加。日本の滞在歴は最も多いのが2年から5年が18人、次いで15年から25年が15人、日本生まれは4人、最短で1年が1人だった。
属性はハーフが21人、日系三世が8人、二世が4人、一世が1人、日系人配偶者をもつ非日系が9人、無回答が4人という結果となった。
相談者の居住地域は愛知県が21人、岐阜県が8人、静岡県が5人、島根県が4人、三重県が4人、奈良県が2人、山梨県、神奈川県、滋賀県、広島県が各1人。
在日ブラジル人向けフリーペーパーやブログ、SNS等で開催を知った人が日本全国から相談を持ちかけた。
カウンセリング終了時に「日本のコロナの感染者が増えて、サポートがもっと必要」といった声もあった事を報告している。情報がうまく入っておらず「自分が感染したら? 家庭内で感染者が出たら?」と不安を抱き対処法が伝わっていない様子だという。
同セミナーはユーチューブ上で動画が公開されている(https://www.youtube.com/watch?v=ny2o71hPOkg)