ニッケイ新聞で1月28日から2月26日にかけて連載された『アジア系コミュニティの今=韓国編』が、偶然の重なりで韓国でも紹介された。韓国慶北大学校社会科学研究院人文社会研究所の李埰文(イ・チェムン)教授が、今年2月26日に発行したニュースレターで、全て韓国語に“お色直し”してのお披露目となった。全38ページ・カラー、写真も多く興味をそそられる一誌である。
ちょうど当連載がネパール編でスタートを切った昨年10月、同教授の研究院で専任研究員を務める日本人女性から、「ブラジルの韓国人移民について取材していただけますか」との連絡がきた。まさに韓国コミュニティの取材をしようと思っていた矢先で、「ニッケイ新聞での連載の内容と重なってもよろしければ」ということで了承を得た。
現在、韓国大邱にある慶北大学社会学科教授や社会学科研究院院長を務める李教授とは、2016年3月にサンパウロで初めて会った。ブラジル大韓老人会の金進卓会長から、「日系コミュニティを李教授に紹介してほしい」と電話があり、一緒にリベルダーデ地区を歩き、ニッケイ新聞にも訪問した。終始にこやかな姿だったとの印象が残る。
李教授は在外コリアン研究を精力的に行っており、過去20年間で約20カ国を訪問し、各地でコリアンを対象にインタビューやフィールド調査などを実施してきた。また高麗人研究の専門家として、彼らが多く居住するカザフスタン、ウズベキスタンはとりわけよく訪問している。
韓国と日本は、類似する地域に在外邦人・コリアンをかかえているため、両者の比較研究も行っており、これまでブラジルとメキシコに関する同テーマの論文も発表されてきた。
今、在外コリアンは全世界で約750万人がコリアン・ディアスポラ(離散)を形成しているという。その数は、南北を合わせた朝鮮半島の人口約7500万人の10%を占める。各地域で韓国の政治、経済、文化など多方面で影響を与えていることから、その研究意義は大きい。
李教授のチームは、2011年以降、社会科学研究院の各種プロジェクトや研究団として様々な研究を行い、その成果の一部を全世界にも伝えるため、ニュースレターを発行している。
今回、なぜ日本人の筆者に韓国人移民の取材の依頼をしたのかは素朴な疑問だった。李教授は、「ブラジルの日系人として、コリアン・ディアスポラに対する中立的な視座から記事を提供してくれると確信していた。また、ブラジルのコリアンと日系人の比較などの視点も持ち合わせていると思ったためである」と回答してくれた。実にすばらしいチャンスを与えてくれた。
李教授は米国ミネソタ大学で博士号を取得している。ルーツは大切にしながらも、国境にとらわれない同教授の視点や物事の進め方に、懐の深さを感じさせられた。
東アジアでは日韓の仲を引き裂かれそうなニュースもある中で、サンパウロではブラジル産コーヒーを飲みながら、日本人と韓国人の老若男女が平和に言葉を交わせられる。なんとブラジルは温かい土地なんだろう。
ぜひ日本からも、李教授のように足繁く在外同胞や子孫の元に通って調査する研究者に出てほしいものだ。(文・大浦智子)