コロナ禍による平均死者数が連日、過去最高記録を書き変え、医療崩壊が全国規模で広がる中で、ボルソナロ大統領は11日に各州政府が行っているロックダウンを批判し、物議を醸した。10日には、ワクチン入手を容易にする法令裁可のイベントに閣僚共々、マスクをはめて参加し、ワクチン接種を促すなど、姿勢を変えたと思わせたが、その翌日の出来事だった。その背景には、支持者によるルーラ元大統領への強い対抗心がある。12日付現地紙が報じている。
ロックダウンを含む規制強化への批判は、11日に開催された零細・小規模企業家たちとのビデオ会議の席上で行われた。この会議にはパウロ・ゲデス経済相も参加した。
ボルソナロ氏はこの席で「州知事たちは誰の許可を得てロックダウンや夜間外出禁止などを行っているんだ。この種の規制は大統領だけが議会の承認を得て行えるんだ」「こんな無責任なことをやらせていていいのか」と企業家たちに訴えた。
さらに「私だって命の事は心配している。だが、経済はどこまで持ちこたえられるんだ。経済が崩壊したら何が起こると思う。スーパーへの略奪行為やデモ、ストだ」とまくし立てた。
大統領は昨年の3月から5月にかけても、ロックダウンや厳しい外出自粛規制を、「経済の危機」を招くと批判。全国各地で、比較的裕福な支持者たちが、カレアッタ(車両デモ)を行うなどをした結果、規制緩和とも相まって感染者、死者が急増し、世界第2位の規模になる事態が起きた。感染者数はその後、インドに追い越されて3位に落ちたが、最近の感染爆発で、差が縮まっている。
この発言は大統領が前日に行った行動と全く正反対なもので、世間を混乱させた。ボルソナロ氏は10日、閣僚と共にマスクを着用して連邦政府主催のイベントに参加。大統領長男のフラヴィオ氏は「我々の武器はワクチン」というメッセージまで拡散までしていた。これらの行動は、ルーラ元大統領が10日に行った記者会見で、マスク着用とワクチン接種を訴えたのを意識した行為と、マスコミは見ていた。
だが、この行動がボルソナロ氏の支持者の強い反感を呼んだ。支持者たちは、左派を代表し、来年の大統領選に出馬すれば最大の対抗馬となるルーラ氏と同様のことを行おうとしていることが気に入らず、以前のように「隔離反対」を強く訴えることを望んだ。
ボルソナロ氏が支持者からの圧力に屈して意見を変えるのは、これが初めてではない。昨年10月にも、保健省が各州の知事との会合で、コロナバックを購入し、接種計画に取り組む意向を発表した際も、最初は反対してなかった。だが支持者の一人が「中国製のワクチンを使うのか」と訊ねた途端、「使うはずがない」と返答。態度を一転して、保健省が前日の内にブタンタン研究所に通達していた購入契約を反故にさせた経緯がある。
ボルソナロ氏がルーラ氏を強く意識し、牽制している背景には世論の動向がある。12日にXPインヴェストメントスが発表した世論調査の結果では、アンケートに答えた人の63%が「経済政策が間違っている」と答え、45%がボルソナロ政権を最悪と判断した。さらに、大統領選でのシミュレーションでも、8日にラヴァ・ジャット作戦での裁判が無効になった直後のルーラ氏が、一次投票で25%とボルソナロ氏の27%に肉薄。両者を想定した決選投票でも、ボルソナロ氏の42%にルーラ氏が40%と、早くも互角の結果が出ている。
6日発表のIpecの調査では、ルーラが出馬すれば彼に投票すると答えた人が50%、投じないとした人は44%だった。ボルソナロ氏の場合は、彼に投じるという人は38%で、投じないと答えた人の56%を下回っていた。