駐ブラジル日本国大使館(山田彰大使)とブラジル科学技術革新通信省は3月2日、ユーチューブ上で『ウィズコロナ・ポストコロナの世界におけるAI(人工知能)技術の可能性及び産業や社会への影響』ウェビナーを開催し、双方のAIへの取り組みについて紹介、意見交流などが行われた。
ウェビナーの冒頭には山田大使が挨拶、「日本とブラジルはすでに強い友好関係で結ばれておりますが、科学技術分野は今後の協力においてポテンシャルの高い分野のひとつ」と説明した。
ブラジルで開催予定の日伯科学技術合同委員会が日程調整中であることに触れ、「両国のAIをはじめとした様々な科学技術の協力を深化させていくきっかけにしたい」とコメントした。
日本側の講師には東京大学大学院工学系研究科人工物工学研究センターや技術経営戦略学専攻の教授、日本ディープラーニング協会理事長やソフトバンクグループ社外取締役を務める松尾豊さんが出演。ブラジル側からは電気通信研究開発センター(CPqD)のノルベルト・アルヴェス・フェレイラ氏が出演した。
講演後の意見交換の場で松尾氏は、「ブラジルの大企業と日本のスタートアップが組む事になったら非常にエキサイティングだなと思います」と期待を寄せた。AI技術を米中が牽引している状況を踏まえ、「ブラジルのスタートアップ企業の事例が日本でもお手本になりうるし、逆もありうると思います」と頷く。
松尾教授は講演で、日本国内における様々な分野での人工知能の活用事例や、革新を起こす上で重要なスタートアップ企業との取り組みや、日本深層学習協会(JDLA)の取り組みを中心に紹介した。「深層学習(ディープラーニング)」とは、人間が行う深い考察や推測、問題解決の手法をコンピューターに学習させること。
人工知能は、シリコンバレーのGAFAや中国のBAT(バイドゥ、アリババ、テンセント)などに大革新をもたらし、今後更に様々な領域で人工知能による変化がおきるという。
17年にJDLAが設立され、人材育成における指針として資格試験を開始した。AI周辺知識を深めたい人向けの「G(ジェネラリスト)」検定、エンジニア向けの「E」検定の2種で、G検定はすでに5万人が受験している。
最後に松尾氏は「ポストコロナでAIの活動がますます進む。日本とブラジル、大企業とスタートアップ企業が連携して進めていく必要がある」と締めくくった。
電気通信研究開発センター(CPqD)のノルベルト・アルヴェス・フェレイラ氏は講演で、IA2という人工知能スタートアップ支援プログラムを実施していると説明。
スタートアップから736件に及ぶプロジェクト応募があった中で、科学技術革新省とソフトウェア開発を支援するソフテックス社が選出した30プロジェクトが、約20万レアルの資金調達を受け現在プロジェクト進行中だ。最終的に15社を選び、30万レアルの追加支援をする取り組みを行っている。
アルゼンチン・ブラジル・チリ・コロンビア・コスタリカ・メキシコ・ペルー・プエルトリコの南米諸国で、AIを積極的に活用した場合の経済成長率をグラフ化した。30年までには少なくとも1・6倍、行政など広範囲の分野で取り入れた場合は最大で2・4倍となるデータを示した。
昨年20年3月から8月にかけての国内のイーコマース成長率が150%以上となっている事や、43パーセントの企業CEOが「2年以内に深層学習を取り入れるだろう」と回答している。「ブラジル国内ではAIや深層学習を事業に取り入れる流れは後戻りできず『受け入れるしかない』という意識になっている」と説明する。
配信動画の日本語同時通訳版(https://www.youtube.com/watch?v=tS5Y_jGysW0)とポルトガル語版(https://www.youtube.com/watch?v=YNmrZ_pm5qg)がいつでも無料で視聴ができる。