ホーム | コラム | 樹海 | 《記者コラム》この人が「ボルソナロの次」の救世主?

《記者コラム》この人が「ボルソナロの次」の救世主?

ジェンチーリ(Twitter)

ジェンチーリ(Twitter)

 今年の3月、コラム子の目と耳を疑うニュースが飛び込んできた。そして、もう失笑するしかなかった。それは、政治団体「ブラジル自由運動(MBL)」が、22年の大統領候補としてダニーロ・ジェンチーリ(Danilo Gentili
)を求めている、というものだ。
 このジェンチーリなる人物。「どういう政治家?」と思う人もいるだろうが、政治家でもなんでもない。彼の職業はズバリ、「コメディアン」。SBT局の深夜のトークショー「ザ・ノイテ」の司会者だ。
 そのジェンチーリだが、政治的な活動もしていないし、今のところ大統領選への出馬の意向も口にしていない。ただ単に「保守の論客」として知られ、それ以上に「女性蔑視的な騒動」の方が有名だ。
 そのうちもっとも大きなものは2017年に、マリア・ド・ロザリオ下議に訴えられたものだ。過去に、後のボルソナロ大統領とも口論をやりあった左派政治家きっての論客である彼女のことを、ジェンチーリはツイッターで罵り続けた末、彼は名誉毀損で訴えられてしまった。
 これに激怒したジェンチーリは裁判所からの訴状を破り、それを自身の性器に触れるようにズボンの中に入れた。これで訴訟は悪化。現在までまだ係争中だ。
 このほか、同じく左派女性下議のサミア・ボムフィン下議を「デブ」と称したことで訴えられたり、少女への強姦罪で逮捕された容疑者を「天才」と呼ぶなど、女性蔑視的なトラブルが相次いでいる。
 そんな彼を支持し始めているMBLといえば、2013年11月に創立し、サッカーのコンフェデ杯の頃から大規模化したマニフェスタソンの主役の一つとなった政治活動団体だ。その後、ジウマ大統領罷免でも大きな影響力を発揮したことでも知られている。
 彼らはラヴァ・ジャット作戦を信じ、政界腐敗を打倒するために立ち上がった団体で、ある時期までは好意的なイメージを持たれていた。
 だが、彼らが「政界を救う救世主」としてボルソナロ氏を求めたことから、雲行きがおかしくなった。彼らは、当時いくつも立ち上げられた政治団体の中で、ボルソナロ氏の支持はむしろ後乗りではあったが、規模の大きな彼らの推薦はボルソナロ氏の当選の原動力となった。
 だが、ボルソナロ氏の大統領就任後は、一転して批判派になった。そこで白刃の矢を立てたのがジェンチーリ。奇しくも彼も、大統領選期間中は熱心にボルソナロ氏を応援し、その後に失望。同氏への批判を繰り返している。
 そんなジェンチーリに対し、セルジオ・モロ氏が「22年の大統領選は彼に投票する」と言ったから、とにかく呆れた。彼としては半ば冗談で発言したのかもしれないが、最高裁から「ラヴァ・ジャット判事として偏りのある判断をした」と、その信用が失墜した直後。その上にこの発言では、「本当に『ブラジルを救う英雄』だったの?」とも思いたくもなる。(陽)