上院でのコロナ禍に関する議会調査委員会(CPI)は5日、2020年4〜5月に保健相をつとめたネルソン・タイシ氏を召喚した。タイシ氏はわずか1カ月で保健相を辞任した理由について、「クロロキンを治療薬にしたいボルソナロ大統領と対立したためだ」と証言した。5日付現地紙サイトが報じている。
前日はルイス・エンリケ・マンデッタ元保健相が、「保健省外に別のコロナ対策委員会が存在した」「(大統領次男の)カルロス氏が(その権限がないにも関わらず)常にコロナ対策会議に出席していた」「大統領はクロロキンを公式な治療薬にするべく、国家衛生監督庁(ANVISA)の基準まで変えようとした」などと発言して物議を醸したが、後任のタイシ氏はそれに比べると穏やかな言動だった。
タイシ氏は閣外のコロナ対策委員会について尋ねられた際、「私は知らない」と答え、カルロス氏に関しても「仮にそこにいたとしても、私は話したことはない」と語った。
タイシ氏はボルソナロ政権の保健相をすぐに辞職した理由に関して、「大統領の否定論者的な物言いに世間が影響されることは回避しようとしたが、それが直接の理由ではない」とした後、「コロナ対策における保健相の権限が小さく、大統領がクロロキンの量を増やそうとしたためだ」と答えた。
タイシ氏によると、大統領は「クロロキンの流通量をあげるため、連邦医師審議会(CFM)にもクロロキンを必須化させるような宣言をさせようとしていた」という。タイシ氏は「私の信条として、科学的な研究結果に基づかないことはできなかった」と語り、辞任の主要因の一つとした。
タイシ氏は、毎週末、クロロキンやイベルメクチンをのんでいるとして、「コロナ感染症に対する早期治療」を擁護した上議に対し、「その処方は間違っている」との見解も表明。連邦政府が軍に命じてクロロキンを製造させていたことや、SUSの医療機関や大衆薬局などに広範囲に配布しようとしたことなどは知らなかったとも答えている。
だが、前日のマンデッタ氏に比べると、タイシ氏の言動はかなり言葉を選んだものであり、「よく覚えていない」という答弁が目立った。そうしたタイシ氏の態度に対し、報告官のレナン・カリェイロス氏が、「私は20世紀につとめた大臣時代の記憶もはっきりしているのだが」と皮肉る一幕も見られた。
前日のマンデッタ氏の証言の影響からか、CPI内の連邦政府側委員にはいらだった様子が見られた。連邦政府派代表委員のシロ・ノゲイラ氏はCPIの聴講に参加した女性上議たちがタイシ氏に行おうとした質問をさえぎり、「委員よりも前に質問をするな」と強い剣幕で迫った。これにより、審議は一時中断した。同CPIには補欠も含め、女性委員がいないが、女性上議たちは順番に委員会に出て、審議の様子を傍聴するだけでなく、質問なども行っている。
一方、タイシ氏の証言と同じ時間に大統領は記者会見を行った。ボルソナロ氏はそこで、「クロロキンを使った早期治療に反対するものはばかものだ」と発言。さらに「コロナ禍は実験室で作られた」と、中国による陰謀をほのめかす言動まで行った。マスコミの中にはこの記者会見を、「タイシ氏への喚問から話題をそらすための作戦では」と見る向きもある。
なお、マンデッタ氏は4日のCPIで、在任中にボルソナロ大統領に送ったコロナ対策に関する文書のコピーを提出しており、CPIでは現政権が採るべき措置を怠った(不作為)の証拠になると委員会側では評価している。
また、コロナ感染者と接触したとしてビデオ証言を希望したパズエロ前保健相の召喚は19日に延期された。CPIは、来週はジマス・コーヴァス・ブタンタン研究所所長やエルネスト・アラウージョ前外相を召喚する予定であることも発表した。
★2021年5月5日《ブラジル》マンデッタ「初期に隔離すれば感染爆発防げた」=大統領はクロロキン固執=次男市議がなぜか会議出席=コロナ禍CPIで元保健相が証言
★2021年5月4日《記者コラム》コロナ禍CPIで熱い攻防が開始する1週間
★2021年4月29日《ブラジル》コロナ禍CPI最初の供述者はマンデッタ氏=初日から質問要望が殺到=歴代保健相全員から聴取、ゲデス経済相も?