5月以降、来年10月の大統領選の動向を占う世論調査が盛んに行われている。そして現時点ではどの調査においても、ルーラ元大統領が50%にもう少しで手が届くくらいの高支持率で独走中。それを20%台半ばと、ルーラ氏の半分ほどの支持率でボルソナロ氏が追う展開となっている。
とりわけ上院のコロナ禍の議会調査委員会(CPI)で、あれだけ連日のように保健省や本人が関わる不正疑惑が生じれば、さすがにボルソナロ氏の支持率の低迷は仕方がないところだ。
だが、人によっては「なぜルーラ氏だけがこのように支持を得るのか」と思う人も少なくはないだろう。「いくらラヴァ・ジャットでの裁判が無効になったとはいえ、ルーラ氏が完全に無実と決まったわけでもないのに」「極右対左派の二極化が問題視されているのに、結局そのままではないか」などの疑問を持つ人は多いだろう。
以前から指摘されている「第3の選択肢(テルセイラ・ヴィア)」。これに該当する候補を求める必要があるのではないか。一部、政治批評家などからはこうした意見が聞かれることもたしかだ。だが、こと22年の大統領選に関して言えば、コラム子でさえも「テルセイラ・ヴィアには国民の目が向かないだろう」と思っている。
なぜか。それは前回2018年の選挙で支持率1位だったルーラ氏の出馬が、ラヴァ・ジャット作戦での有罪で取り消されたことによる。しかも、そのときの裁判が決定的証拠が示されない形で進み、その裁判の担当判事のセルジオ・モロ氏がボルソナロ政権で法相に就くなどしたため、「陰謀で出馬を阻止された」の印象が国民に残ってしまったためだ。
だが、ハッキングされた携帯電話の内容でモロ氏の判事時代の疑惑が生じ、ルーラ氏の釈放、裁判の無効、さらには「モロ氏のルーラ裁判での偏り」が最高裁で認められたことにより、ルーラ氏が出馬権を完全回復。このことに喜んだ国民は多かった。
そうした経緯での同情論や「復讐」を求める声、さらにはボルソナロ政権によるコロナ対策失敗などによる幻滅から、「これならPT政権の方がまだよかった」「2000年代の繁栄を築いたルーラ氏なら事態を戻せる」の期待感が現在のルーラ氏待望論につながっているのだろう。
こうした状況なら、シロ・ゴメス氏やジョアン・ドリア氏といった、現状3、4位の候補も割って入りにくくはなるだろう。モロ氏に出馬の噂はあるが、彼ではボルソナロ氏に失望した保守派の票は期待できても、新たな別の流れにはなりえないだろう。
もっとも彼らには、ボルソナロ氏の人気下降に乗じて2位に滑り込む可能性ならあると思うが。(陽)