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安慶名栄子著『篤成』(41)

 いつも仕事に追われ、雑誌や新聞はおろか、本も読まなかったので、物知らずな私は、「クスコ? クスコってどこにあるの?」と聞きました。「ペルーだよ。マチュピチュと同じところだよ」と父は直ぐに答えました。
 やっとわかりました。マチュピチュという名前は聞いたことがありましたが、どこにあるかさえ知らなかったのです。そして行ってみました。
 父は目を輝かせてあちこち眺め、好奇心満々と驚嘆の表情で目を見張り、優れた設備、特に導水設備の遺跡を見て、「どのように作ったんだろう、当時は今のような技術も機械もなかったろうに」と本当に不思議がっていました。
 クスコは暑く、気温が40度以上にも上がったりしました。首都リマへ戻り、パーフェクトリバティー教会を訪問したら、荒木先生が古代博物館へ連れて行ってくださり、私は生まれて初めてミイラを見ました。その他に色んな考古学的な珍しい遺産によりその歴史的背景にも接する事が出来ました。それから当地の沖縄県人会にも行きました。
 父篤成は、そこでもまた、雑誌や本でしか見ることのできない場所を見学するという素晴らしい体験をし、欣喜雀躍の境地に達していたのです。
 そして、何時ものことでしたが、私の方が父より若い割には気圧の差を感じ、体調を崩してしまいそうになった反面、父の方はずっと平気で私をからかう程でした。
 父の健康診断を細目に至るまで毎年行ってきていた新堀先生は、父が本当に旅行好きだという事に気付き、大体半年に一回というペースで旅行に出かけることを勧めてくれました。そうすると、次の観光旅行を楽しみにしながら健康を維持していくでしょう、という事でした。私はそうすることに決め、父も首を長くして次の旅行を待つことで薬もいらない生活を送るのでした。

第29章  河川の合流点

 私たちがアマゾンへ行った機会に、孫のロドルフォが一緒に行ってくれました。マナウスのアリアウーという、棚屋風に作られた水上ホテルに滞在しました。愛情深いロドルフォはホテルの食堂へ行き、部屋で休んでいた曾爺ちゃんのためにコーヒー1カップとケーキを1切れ貰ってきました。ホテルは大きな樹の枝の間に建築されており、廊下が歩道橋の様になっていましたが、そこを通過しているときに、一匹のサルがいきなり小さいロドルフォの肩にとびかかり、ケーキを奪い取り、再び樹の枝に這い登り、消えて行ってしまいました。
 ロドルフォがあまりにもおかしい顔をしたので、「怒った?」と彼に聞きました。11歳になったばかりの孫は、「怒らないけど、あのサル、重かった!」と、皆で大笑い。
 年老いた者と若い少年の旅はそれからで、面白いエピソードはまだまだ続きました。
 ソリモンェス川とネグロ川の合流点をみんなで見に行きましたが、モーターボートに乗った孫は雄々しく振る舞い、得意になっていました。そばで見ていた私にとっては、それはとても対照的でした。年老いて疲れたような姿の父と、若く、元気満々の孫。
 そこは水の合流のみならず、世代の合流点でもありました。