小野寺郁子さん(愛知県、90歳)が随筆をまとめた作品集『夕映えの章』(146ページ、日毎叢書発行)を発刊した。随筆が33作、他にも短歌が35首収録されている。
9日、編集部に寄贈するため来社した小野寺さんに話を聞いた。小野寺さんによると昨年12月に90歳をむかえた際、日毎叢書企画出版の前園博子さんから記念に本を作ってはどうかと勧められ、6月頃から編集作業が始まった。
楽書倶楽部で発表した随筆を中心に本紙、椰子樹、ブラジル日系文学誌などで発表した約10年分の作品が集められている。パンデミック中、聖市からサルト市に住む娘夫婦の元に避難している小野寺さん。娘夫婦が買物をする間に車中で待つ事になった時の体験を書いた『駐車場』ではコロナ禍ならではの体験と交流が綴られる。
小野寺さんが自身の本を出すのは通算3冊目。「90歳で本を出せて幸せ。長男は『この歳で母がいて幸せ』と言ってくれて、次男も本が出せて幸せ者だねと言ってくれました」と満ち足りた顔で微笑む。
本のタイトルは、人生を一日に例えると自分の年齢では夕暮れの時刻となる事から。現在の幸せな心境を、風景が照り輝く夕映えに例えたそう。小野寺さんは「表現ができる趣味を持っていてよかったと思っています」と頷く。
「一瞬の思いを短歌に、もう少し込み入った内容を随筆に」と書き分けるという。短歌や随筆をはじめたきっかけを聞くと「四人目の子供が小児麻痺を患ってからその不安な気持ちを作品に書いたのが始まり」と振り返る。
同著は約60冊発刊しており、友人や知人に配布中。関心のある人は日毎叢書の前園さんのもとにも4・5冊預けているとのこと。日毎叢書企画出版(メール=nitimaisousyo@gmail.com、電話=11・3341・2113)へ問合わせを。
大耳小耳 関連コラム
◎
90歳の記念に随筆をまとめた作品集『夕映えの章』を発刊した小野寺郁子さん。これまでパウリスタ新聞歌壇や、椰子樹、武本文学賞短歌部門の選者やエスペランサ短歌教室、まどか通信短歌教室での指導にもあたってきた。経歴を聞くうちに、子供時代に日本語教育が禁止されているバルガス政権下で「隠れて日本語を勉強した」という当時の貴重な話も。当時住んでいたチエテ移住地では、ブラジル人官憲が日本語書籍を抜き打ちで調べに来るなど家探しが頻発したという。「朝に家を出る時、農作業の袋に日本語学習ノート等を入れて、畑の作業小屋に隠して夜に家に持って帰る」という日々だったという。