新型コロナ感染症で57万人を超える人々が命を失ったブラジルだが、現在はワクチン接種が進んでいる。1年半に及ぶ新型コロナとの戦いの中、特別な思いでワクチン接種に関わった人達がいると22日付G1サイトなどが報じた。
23歳の学生のマウリシオ・ジョアキン・グリボウスキ氏は21日、ブラジル南部のパラナ州クリチバ市でワクチン接種を受けた。同氏に接種を施したのは、週末だけ予防接種キャンペーンを手伝っている歯科医で父のロジェリオ・ド・アマラル・フェレイラ氏だ。
祖父をコロナで失った事もあり、ワクチン接種を受けられる日を心待ちしていた上、州内ではデルタ株による感染が拡大し、死者も出ているという情勢下で初回接種を受けたマウリシオ氏は、父から接種を受けるという形で、不安と期待の入り混じる状態が終わる喜びを分かち合った。
マウリシオ氏がロジェリオ氏が接種を施していたテントで接種を受けられるか否かは、一方的に割り振られるため、テントに行くよう指示された上、そこにいた人々から「ほら、ロジェリオ先生の息子さんだ」と言われ、拍手を受けた時には胸が熱くなったという。
他方、マウリシオ氏以上に彼の接種を喜んだのはロジェリオ氏だ。医師として、息子の年代の青年達に接種を施す事ができただけでなく、息子にも接種を施す特権にあずかったロジェリオ氏は、「本当にありがたい」という言葉で喜びを表現した。
ロジェリオ氏らは、マウリシオ氏に接種を施す様子を撮影した知人が、インターネットにビデオを掲載した事や、多くの人がそれを見て好意的な反応を示した事に驚いた。ビデオには、マウリシオ氏が父親に「おじいちゃんが見ていたら、きっと、僕達の事を自慢するよね」と語った瞬間も映っていた。
マウリシオ氏がこの時言及したのは、ロジェリオ氏の父で今年3月に87歳で亡くなったアルセウ氏の事だ。アルセウ氏は初回接種を受けたものの、2度目の接種を受ける前に新型コロナに感染して亡くなった。21日はアルセウ氏の誕生日だった。
マウリシオ氏は接種を受けた後、「祖父が生きていたら、皆が揃って誕生日を祝っていたのに…。でも、僕達が一堂に会し、ワクチン接種を施す側と受ける側とで、互いに責任を果たした事を誇らしく思ったに違いない」との言葉で、祖父への思いと父から接種を受ける事ができた喜びを語った。無論、その最後には、接種後も感染の可能性がある事などへの注意喚起を含めた「気をつけて!」の言葉も忘れなかった。
クリチバ市では同日、4万5611人の若者がワクチン接種を受けており、ロジェリオ氏とマウリシオ氏以外にも、看護師の父が4人目となる息子(末っ子)への接種を施した事が報じられている。