さてブラジルは今、政治面では大統領が統治ではなく選挙向け扇動に余念なく、施政者としてではなく候補者として言動するため危険状態。その余波で経済金融面でも不安定かつ不透明、慎重に見守る状態になって、2022年経済観測が悪化して止まない。
経済活動は第2四半期に勢いを失って、僅か0・1%ながらGDP(国内総生産)が減少して終わった。鉱工業生産が7月に観測以下、1・3%下落して、パンデミック前(2020年2月)を2・1%下回る水準で下半期を始めた。インフレ(IPCA)が7月として19年間最大の0・96%、12カ月計が8・99%に到達してしまった。
ワクチン接種が曲りなりにも進んで、多くの地域と都市で経済活動が活発化している。だが他方、干ばつの悪影響が深刻化しているし、原材料の不足もなお正常化に遠い。さらにインフレ加速を前に、中銀が利上げをさらに強く大きくしている。そこに政治リスク、財政リスクの悪化が強く加わったため、一挙に悲観が楽観を押しのけたわけだ。
その前、すでに選挙モードに入っていたボルソナロ大統領は、選挙戦に経済悪化の悪影響を憂慮して、先鋭な政治姿勢を一段と強めて過激な言動を繰り返して止まない。時には選挙制度に対する非難と改正工作、時には最高裁判事の罷免訴訟、そのように民主主義の根幹を揺さぶる動きと扇動を活発化して危機感を醸成して止まない。
ブラジル経済の回復を牽引すると国内で期待されていた世界経済は、やはり影が差し始めている。米国では雇用が勢いを失い、デルタ株の感染拡大もあって、経済が活力を期待ほどに示していない。中国でもデルタ株感染で一部の地域や業態が阻害されて成長減速を示している。半導体など原材料不足は来年にも継続しそうだ。
(1)悪化した国内の主要なリスク
リスクの上で前月に比較して、大統領の過激な発言や行動が政局の不透明性を増して、特に政治と財政のリスクが悪化と言える。経済では、干ばつは電力消費規制に進展する確率は低くとも、農業や輸送をすでに悪化し、確実に今年のインフレや活動減速の形ですでに阻害して、さらに来年のそれらを阻害していく。
金融保険5年物CDSで示されたブラジルのカントリーリスクは今年にすでに29%上昇した。財政リスク悪化は、大統領が様々な手段と形態を通じて、財政健全化ではなく人気挽回向け支出増加に傾斜している事実に起因する。
その過激な発言や行動は制度リスクも悪化している。特に9月7日独立記念式典と声明への危惧を高めた。確かに民主主義制度は堅牢との評価が市場内で一般的だが、外国投資が減速し、確実に悪影響を広げている。
経済面で8月に悪化しているリスクは、インフレと金利の観測と干ばつであり、その波及として景気減速の見通しだ。景気減速の見通しには、干ばつの深刻化に加えて、経済活動の規制緩和の中でデルタ株の感染拡大も寄与している。
インフレとともに金利引上げがさらに進むはずだし、干ばつが農業とアグリビジネスの生産だけでなく産業全般に影響を拡散している。基礎項目の長引く高値に加えて、半導体不足に苦しめられる自動車産業を代表例に、一部の原材料の不足がそれに依存する産業の生産を来年にかけて阻害し続け、今後の景気回復を困難にしそうだ。
(2)やや悪化した国外の主要なリスク
コロナ禍はデルタ株感染が世界中に拡張して、ワクチン接種拡大に連れて強まっていた期待に水を差して、世界経済の回復がより鈍くなる情勢を前に、リスクはやや悪化して、全般に慎重振り、先行き不安が増したと言えよう。
国際面で注目を集めた米軍のアフガニスタン完全撤退は、問題が噴出して、市場に新たな地政的リスクをもたらすが、市場に短期的には大きな影響にならないようだ。
市場が最も注目する米国の金融通貨政策は、FRB理事会が債券購入の規模縮小の開始時期に関する判断の分裂を示す。雇用やインフレに関する最新の結果は、その声明によれば、FRBが指針を見直す必要に迫られる事態は未だ認識されていないようだ。
米国経済の回復が減速の兆候を示して、その消費者の信頼が8月初めに最近10年間最低に下落した。8月に失業率が5・2%に減少したが、雇用創出は23万5千と、見込みの75万を大幅に下回るものだった。他方、消費者物価指数が7月に0・4%上昇、そのコアは観測並で落ち着きを示した。
さらに中国が支援策を終えることを始めるようだ。そうなるなら、すでに8月19日に鉄鉱石価格が弱い需要と供給拡大の観測から6カ月以上で最低値を記録したように、堅調だった国際商品相場にも影響を及ぼす。他方、原材料不足は世界の新たな現実、解決に手間取るとの評価だ。
(3)経済観測は悪化して2022年に高インフレと鈍い成長(スタグフレーション)を危惧
マクロ経済観測(9月3日付Focus)は2022年にインフレ(IPCA)が3・98%、GDPが1・93%、鉱工業生産が2・01%の伸び。前回(7月30日付)はIPCAが3・81%、GDPが2・10%、鉱工業生産が2・20%、いずれも今回にかけて悪化した。
インフレの上方修正が続くため、当然にSelic金利予測も7・00%から漸進して7・75%に引き上げた。他方、ドルはR$5・20で前回と同じだった。来年のIPCA予測は目標中心3・5%を上回っても上限5%に対して余地を少し残すが、利上げ継続の必要性は明らかだ。
なお2021年マクロ経済観測はGDPが5・30%から5・15%に、鉱工業生産が6・38%が6・28%に下方修正し、IPCAは6・79%から7・76%にさらに上方修正した。Selic金利は7・00%から7・63%にさらに上昇し、ドルはR$5・10からR$5・17にやや上昇した。
今年というより特に来年の経済観測を悪化している主因は今、政治的緊迫と財政リスク、さらに高い金利だ。繰り上げて選挙モードに入ったため、政治的緊迫と財政リスクでの改善を期待しにくく、来年の経済観測はなお悪化しそうだ。
(4)8月に再び下落した株価
平均株価指数(Ibovespa)が7月の前月比3・94%に続いて、8月に118,781点に2・48%、さらに下落した。8月16日に5月以降最低値を記録した。インフレ観測、それに連れて金利観測も上昇して、確定利のものの価値も再び下落した。
サンパウロ証券取引所(B3)で外国投資家の取引高は8月に再び黒字を記録し、R$73・5億の入超だった。買いでのシェアを増加して7月の赤字を入超に転じた。ただし政治と財政のリスク悪化は、夏季休暇明けに外国投資家が買いに入るとの楽観を許さない。別の問題は、配当金に新たに課税を規定する所得税改正の下院通過だ。
株価に関して悲観が強まった原因は、国内情勢を暗くする財政リスクの他に、景気減速を示す中国が規制強化を通じて国際商品相場を下落して、株価の行方に影を差している。資産管理者の楽観は2018年以降最低に下落したようだ。他方、国外では一部の専門家が株価にリスク増加を警告し、デルタ株が不安材料とはいえ、米国で株価指数が新記録を樹立し、欧州でも上昇している。
(5)ドル相場はどうなり、外貨建て資産は投資対象か
ドル相場は7月に入ってから政治財政リスク悪化が進んで、8月も0・42%上昇してR$5・143(Ptax)で終えた。外為収支は8月に、貿易為替で黒字11・32億ドル、金融為替で黒字25・77億ドルを記録した。
8月のドル高は、米国で金融通貨措置の見直し繰り上げの可能性が遠のいて、国外より政治財政リスク悪化のような国内の要因が寄与した。そして主因である政治財政リスクは選挙モードに入った今、短期的に改善を期待しにくい。
かといってインフレ加速を前に、中銀が利上げを加速しているため、米国の金融通貨措置が継続する構図の中で、投機的外資が流入するように機能する。政治財政リスクの危惧が緩和すれば、R$5・00割れは難しくとも今より下がる余地は残っている。
エルサルバドルが9月7日にビットコインを法定通貨として採用する最初の国となったが、5万ドル台にあったビットコインが施行での混乱とともに急落した。また金は8月平均で1786ドルだったが、8月に1800ドル台に上昇した。
安全性を優先する私だが、Ibovespa(株価指数)が8月に12万点を割った時点に株式資産買戻しを再び実施した。Ibovespa下落で株式資産残高が再び減少した。インフレ・ヘッジの確定利もインフレ観測悪化で下落した。ドル高で外貨建て資産残高がやや増加したが、私の金融資産残高は8月に再び前月を下回ってしまった。
公債のプレミアム増加で国債投資(Tesouro Direto)は今や魅力的な選択肢になってきた。だが安心したものはSelicリンクのものだけで、金利先決めもインフレ・リンクもリスクを伴う。独立記念日休み明けに株価が強く下落し、ドルが上昇したように、悲観が強く推移しそうだ。収益より安全優先を基調にする運用が続くことになる。