【編集部】2014年に本紙に連載小説『日本の水が飲みたい』を掲載した広橋勝造さんが、新しいコラム集『50年後に帰った日本でのカルチャーショック』を発表している。本人の許可を得て、タイトルなどを多少変更した上で、ここに転載する。
広橋さんは福岡県博多市出身、1971年に26歳で単身来伯した戦後移民で、現在は医療機器のメンテナンス会社を経営する。今年は渡伯半世紀を迎える記念すべき年。いままで商用で2回ほど短期帰国しただけだったが、父親の50年忌参列のために初めて長期間、祖国の土を踏んだ。
その間、あらゆる場面で〝浦島太郎〟のようなカルチャーショックに見舞われた。その様子を面白おかしく描写した道中記だ。以下、本文。
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1971年に26歳でブラジルに単身移住した俺、今年2021年でブラジルに丁度半世紀の50年になる、時の経つのは早いもんだ。近年、仕事の関係で短期間の日本訪問を2回していたが、今回は親父の50回忌参列を利用して、のんびりと日本を楽しもうと思って訪日した。だが、それがのんびりではなく、カルチャーショックに見舞われる事となった。その事を列記する。
レジの女と気まずい睨み合い
現代の日本人の靴に比べ俺の汚い靴が気になった。東京でカッコ良い靴を買った。それに凄く安く、良い買い物であった。
さて支払いだ。レジで千円札2枚を出して僅かなお釣りを待った。30秒位経って、レジの女の子は嫌な目つきになって俺を見つめ始めた。
俺も「何やってんだこの野郎」とお釣りを待ってニコニコ顔が消え、自然に口を尖らせた。それから約1分間2人は睨み合いになった。女の子の顔が引きつってきた。
やがて俺から目を外し、俺を馬鹿にしたように無視して、店内の音楽に合わせて体を揺さぶり始めた。現代の日本の女の子のレベルは落ちたもんだと思った。
50年ぶりの日本での買い物、この様な仕打ちに合ってどう対処したら良いか迷った。
サンパウロでは「(おい可愛いねーちゃん、お釣りをくれよ)」と言って直ぐに解決するのだが、50年ぶりの日本では少し気後れして、如何に切り出して良いか躊躇した。
いつの間にか後ろに二人の客の列ができた。一緒に来た50年前に務めていた会社の同僚でブラジルにも来てくれた友人まで、「おい、どうしたんだ。早くしろよ」と急かしてきた。
俺「このレジの女がお釣りをくれないんだ。プッシャ・ビーダ!(何て事だ)」
彼「あの~、会計早くしてくれませんか」
女「12円足りないんですよ…」
俺「2千円出したじゃないか。早くお釣りをくれよ」
女「12円足りないじゃないですか」
俺「これ2千円以下じゃないか!」
友人「あっ、広橋さん、消費税がいるんだ」
俺「はあ、消費税?」
初めて聞く税に「何それ?」
彼「ごめん、ごめん、こいつ、サンパウロから来て消費税の事を知らないです」
日本って厳しい社会になったもんだな。